第7話 突破

インフレワールドには、紋章という力がある。

この力は30段階に区切られており、ランクが上がる毎に、その出力は大幅に上がっていく仕様だ。


では紋章のランクはどうやって上げるのか?


その強化方法は至って単純で、マナと呼ばれるエネルギーを体内に吸収するだけである。

マナはゲームで言う所の、経験値のような物だと思って貰えばいいだろう。


さて、その吸収方法だが。

方法は大きく分けて2つある。


一つは瞑想——心法と呼ばれる物だ。


心法は心を集中させ、特殊な呼吸方法を行う事で、世界の大気に漂うマナを吸収する技術である。

但し、100のマナを吸い込んだとして、そのうち体内に取り込めるのは1割程度と言われている。

そのため、効率はあまり良くない。


そしてもう一つが――魔宝玉の摂取だ。


魔宝玉には高純度のマナが込められており、その吸収率は瞑想と違って遥かに高い。

使えば一気に大量のマナを取り込めるため、魔宝玉はバトラーにとって垂涎のアイテムとなっている。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「そんな高価な物を、1勝につき1つくれるとか太っ腹だな」


魔宝玉にはランクがある。

色の薄い青が最低等級で、血の様な真っ赤な赤が最高等級だ。

婆さんがだした魔宝玉は最低ランクの物だったが、それでも日本円換算で数百万は下らない価値があった。


一個でサラリーマンの年収越え。

それを1回勝つごとに1つくれるというのだから、報酬としては破格と言っていいだろう。


「私の代理人として戦って頂くのですから、これ位当然ですわ」


これだけの報酬が出るとなると、断る理由はないな。


「わかった、引き受けよう」


武の道に近道など無いと言われてはいるが、それは地球での話。

異世界にその理論は通用しない。

俺の紋章を素早く成長させるためにも、ここで魔宝玉をがっつり稼がせて貰うとする。


「では、手付としてまずは一つ差し上げますわ。流石に、1勝は絶対にして頂く前提ですから」


フジさんから、魔宝玉の入った箱を手渡される。

その中にある魔宝玉を指先で摘まみ、早速俺は口の中に放り込もう――因みに宝玉は飲みんで吸収する物――とすると……


「お待ちください」


婆さんに手を掴んで止められてしまう。


「魔宝玉には強い毒素が含まれております。事前にポーションを服用し、ベッドで安静した状態で吸収された方がよろしいかと」


大量のマナを吸収できる魔宝玉ではあったが、強力な毒性が含まれているという欠点があった。

そのため、服用時にはダメージを和らげる回復アイテム――ポーション――を服用し、安静状態を取れる様にしておくのが通常だ。


因みに、毒は直ぐには分解されず、肉体に長くの残るらしいので、一度吸収したら最低でも一か月以上間隔を開ける必要があると言われている。

もしこの制限が無かったら、きっと値段は今の数倍以上に膨れ上がっていた事だろう。


強さが尊ばれる世界で、楽して経験値を稼げる方法だからな。

飲み放題なら金持ちや貴族が買い漁るのは目に見えている。


「成程。ひょっとしてそれも用意してくれるのか?」


「もちろんですわ。婆や」


「はい」


エロカワが命じるとフジさんが俺の手を放し、棚から水色の瓶を持って来る。

恐らくこれがポーションだろう。


「ベッドはこの部屋の物をお使いください。それと、汗を多量にかく事になると思いますので、先ほどの寝巻に着替えておくと宜しいかと。シーツの汚れなどはお気になさらずに」


エロカワとの顔合わせの為だけに着替えさせられたってのに、またすぐに着替えろってか。

まあ別にいいけど。


「苦しむ姿を見られるのも嫌でしょうから、私達は一旦下がりますわ。それでは後程」


そう言って、エロカワはフジさんを連れて部屋を出た。


「まあ色々気遣って貰って悪いけど……」


俺は気配が遠ざかったのを確認してから、特に何もせずそのまま魔宝玉を飲みこむ。


事前にポーション?

そんな物はいらん。

着替えも、安静の為のベッドもだ。


何故なら俺には――


「転生チートで、毒に対する完全耐性貰ってるからな」


この毒無効は、俺が希望した物だった。


ああ言っとくけど、別に魔宝玉をデメリット無しで飲みたくて頼んだんじゃないぞ。

なんせこの世界のレクチャーを受けたのは、チートを貰った後だからな。

なので魔宝玉の毒が無効で飲み放題状態なのは、偶然の産物でしかない。


じゃあなんで毒耐性なんて貰ったのか?

それは俺の死因に起因する。


前世では熊を倒した後、作った毒キノコ入りの鍋を喰って死んじまった訳だからな。

もう二度とあんな無様な死に方はしたくない。

そう思ったからこそ、俺は毒無効をチートとして貰ったのだ。


「しかし……これがマナを高速吸収する感じか」


胃の当たりが猛烈に熱い。

そしてその熱が、エネルギーとなって紋章のある心臓の当たりに吸い込まれていくのを感じる。


「ぬ……」


左胸に燃え上がる様な感覚が走る。

それと同時に、紋章から力が漲って来た。


「これが突破か。悪くない感じだな」


紋章のランクが上がる事を、この世界では突破という。

取り敢えずこれで俺の紋章のランクはEだ。

かなり力が上がった様に感じるので、次にアホウ級の敵と戦っても、もうあそこまで苦戦する事はないだろう。

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