第6話 依頼

「ん?」


俺の言葉に、令嬢と思しきおデブ子が訝し気に眉根を顰めた。

多分、意味は伝わってはいないだろう。

特殊なやりとりに使われる言葉だからな。


因みに転生する際、俺は言語が変換されるチートを神様から授けられている。

これは転生時に絶対貰える基本チートだそうだ。

まあここまで普通にこの世界の人間と会話して来たのだから、今更深い説明は不要だろう。


「チェンジ?何がチェンジなのです?」


「ああ、気にしないでくれ」


可愛くないからチェンジ希望なのだが、勿論通るわけなどない。

なら説明する必要はないだろう。

しても相手を不快にするだけだし。


だったら最初っから口にするな?


尤もな意見である。

だが、出してしまった物は仕方がない。

次からは気を付けるとしよう。


「こちらのお方はビミョウ家御令嬢、エロカワ様です。御失礼のない様に」


マウントフジが令嬢を俺に紹介する。

ビックリする程、名前負け感が凄い。


まあ球体フェチなら、そこに可愛らしさやエロさを見出すのかもしれないが……

俺には無理だ。


「俺の名はタゴサクだ。で、俺に何の用があって拾ったんだ?」


婆さんが俺に貸しを作ろうとしていた事から、単なる興味以外の用件がある事は、火を見るより明らかだった。

球体令嬢と回りくどい話をするつもりも無いので、ドストレートに用件を聞く。


溜口で。


別に恩人だとは思っていないし、貴族の子飼いでもないからな。

年下相手に一々敬語を使う気はさらさらない。


まあ俺に用件があるのなら、その程度で「無礼者」とか言って何かして来る事はないだろうという、打算ありきの行動ではあるが。


「成程。確かにばあやの言う通り、聡い方の様ですね」


婆さんが少しきつめの視線を俺に向けるが、エロカワ自身は此方の言葉遣いを気にしていない様子だった。

この見た目で傲慢な高飛車だったら最悪だったからな、そうじゃなくて安心する。


「実は貴方に願いしたい事がありまして」


「フジさんにもさっき言ったけど……介抱した事を貸しと考えてるんなら無駄だぞ。放っておかれても、2-3日で全快してたからな。だからそれを理由に、俺に物を頼むつもりなら諦めな」


もう一度ちゃんと釘を刺しておいた。

ハッキリさせておかないと、貸し借り云々を延々引っ張られる可能性があるからだ。

その手の不毛なやり取りは面倒極まりない。


「お助けしたのは、ちょっとしたプラス要素としか考えていませんので。ちゃんと満足して頂けるだけの報酬は用意させて頂きますわ」


「満足する報酬ねぇ……で、俺に何をさせたいんだ?」


「簡単な事ですわ。貴方には私の代理人として、今度我が家で開かれる大会に出て頂きたいのです」


「大会?」


「わたくしから説明させていただきます」


――フジさんが説明を始める。


大領主であるビミョウ家では、5年に1度、20歳以下の若手バトラー達による大会が開かれるとの事。

そしてその大会には、ビミョウ家の次期後継者候補、もしくはその代理人も出る決まりだそうだ。


ま、いわゆる後継者争いの一環って奴だな。


エロカワはその大会の代理人として、長期休暇中の学生であるアホウをスカウトするつもりだったそうだが、そこで俺とあいつとの勝負を見て、勝った俺に依頼する事にしたみたいだ。


つか、アホウって10代だったんだな。

俺はてっきり30位のおっさんだとばかり思ってたんだが……いくら何でも老けすぎじゃね?


「成程……俺にその大会で優勝しろと」


「まさか。そこまでは望んでいませんわ。できうる限り、勝ち残ってさえ頂ければそれで十分です」


「俺じゃ優勝できないと?」


お前じゃ優勝は無理と言われ、ちょっとカチンとくる。


「ええ。大会にはBランク以上のバトラーも、多数出場しますから。いくらあなたがランク以上に腕が立つとは言っても、流石に優勝は無理でしょう」


「Bランク以上か……」


正直、Cランクのアホウですら楽勝とはいかなかった。

相手が余程戦い方を知らない素人だったとしても、B相手は正直厳しいと言える。

とにかく、パワーの差が酷いからな。


「私自身、別に次期後継者を狙っている訳で張りませんので。少し勝って、最低限の面子を保ってさえ頂ければそれで十分ですわ」


まったく期待されていない。

普通なら即座に断りを入れる所ではあるが……


「それで?満足いく報酬ってのは?」


大領主の娘なら、そこそこいい報酬を貰えるはず。

受けるかどうかはそれ次第だ。


「報酬は、大会での1勝につき……魔宝玉一つを差し上げますわ」


エロカワがそう告げると、マウントフジが懐から手のひらサイズの箱を取り出した。

指輪を入れてたりする感じの、縦開きのアレだ。


婆さんはその箱を開け、中身を俺に見せる。

その中に入っていたのは、淡い青色をした真ん丸の宝玉――


魔宝玉だった。

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