第4話 奥義

「くたばれ!」


アホウの全身が紋章のパワーで包み込まれる。

そして奴はそのまま俺に無造作に突っ込んで来た。


――体当たりだ。


戦術としては悪くない。

圧倒的パワー差がある場合、通常、戦いに小細工など必要ないからだ。

吹っ飛ばして、それで終了である。


もちろん、それは正面から何も考えず俺が受けた場合の話だが。


「ふっ」


「うぉっ!なんだと!?」


俺は素早くしゃがみ込み、奴の片足が浮いた瞬間を狙って足払いを入れる。

いくらパワーがあろうと、片足の浮いてる状態でこれを喰らえばダウンせざる得ない。


足を払われたアホウは、突っ込んで来た勢いで見事に俺を飛び越え、背後で顔面から地面にダイブする。


「すげー!マジか!?」


「FランクがCランクをダウンさせやがった!!」


アホウのダウンに周囲が沸く。

それを耳にし、内心、大げさだなと思う。

何故なら、今のは単に転ばしただけでダメージは殆どないからだ。


勝敗に影響が殆どない攻撃程度で、称賛するのは完全に早計である。


いやまあ、それだけFランクってのが下に見られてるって事なのかもしれないが。


「テメェ……」


「今ので分っただろ?手加減はいらないから、本気でかかって来いよ」


先程の体当たり、アホウは全力を出していなかった。

俺の勘がそう告げている。

怒り心頭で殺すとか言っていたが、どうやら本気で俺を殺す気まではなかった様だ。


さっきの忠告して来た取り巻と良い。

如何にも悪人然とした見た目をしている割に、案外悪人ではないらしい。


「まぐれ当たりを入れたくらいで調子に乗りやがって……本気で死にてぇらしいな」


まぐれ当たり……ね。

今の動きをまぐれと評する様じゃ、技術的な物はたかが知れているな。

ま、体当たりの動きで気づいてはいたが。


「御託は良い。本気を出さないってんなら、そのまま終わらせるだけだ」


「調子に乗るな!」


アホウが殴りかかって来る。

今度はちゃんと本気の様だ。


「パワーもスピードもある!けどお粗末な動きだ!!」


アホウの動きは、一応訓練された動きだった。

あの門番に比べれば、遥かにましと言っていいだろう。


だが、所詮は一応レベル。

パワーとスピードがあっても、雑で直線的な攻撃なんざ俺には当たらない。


「ほらよ!」


「ぐっ……う……」


俺のカウンターが奴の顎を捉える。

綺麗に入った一撃だが、アホウには少しダメージが入っただけだった。

これがあの門番だったなら、今ので一発ケーオーしてただろう。


「やっぱDとCじゃ、かなり違うな」


「そんな攻撃!効かねぇよ!!」


「そうかい?なら効くまで殴るまでだ」


アホウの攻撃を捌きながら、2発、3発と攻撃を入れていく。

本来なら全て一撃必殺レベルの直撃だが、奴に大ダメージを与えるには至らない。


……この感じだと、Bランクは無理そうだな。


Cランクにこの程度のダメージしか入らない以上、更にパワーの増すBランク相手では、もはや真面にダメージは入らないだろう。

まあ攻撃を喰らわなければこっちも負けない訳だが、そういう泥仕合をする意味はないしな。


……まあ腕試しはここまでにして、この戦いが終わったら本格的な訓練に入るとするか。


「ふん!」


「ぐぅぅぅ……」


俺の拳を受けて、アホウの片膝が地面に付いた。

塵も積もればって奴だ。

軽微な攻撃でも、何度も同じ場所に喰らえばその内響いて来る。


「すげぇ……Fランクなのに、Cランクのアホウを追い詰めやがった」


「何もんだアイツ」


「なんであんなに強いのに、紋章はFランクなんだ?」


俺達の戦いを見ていた外野がざわつく。


「立てない様なら、降参したらどうだ?」


奥の手でもない限り、勝敗は明らかだ。

だから俺は降参を勧めたのだが――


「降参だと?この俺がFランク如きに……学争バトリング学園の天才児。このアホウ様を舐めるなよ!!」


学争学園?

ん?

ひょっとて、こいつ学生なのか?


ぱっと見、30近くに見えるのだが……


まあ日本でも成人してから高校行ったりする人もいるから、そういう類なのだろう。

そう考えると、凄くまじめな奴に見えて来た。

真面目系金髪モヒカンとか、誰得って気もしないが。


「まさかテメェ如きに、奥義を使う羽目になろうとはな」


アホウが歯を食いしばって、立ち上がって来る。

そして奥義を使うと俺に宣言した。


奥義か……


この世界には、技や奥義が存在している様だ。

所謂、必殺技と言う奴だな。


「良いぜ。受けて立ってやる」


ただ勝つだけなら、それを出させる前に倒すのが基本だろう。

だが、俺が目指すのは頂点。

Cランクの奥義如き、逃げて頂点を目指すなんざ片腹痛いという物。


正面から受けた上で、奴を倒す!


「はっ!死んでも恨むなよ!!」


アホウが大きく後ろに飛び退った。

奴の全身を覆う紋章のエネルギーが、その右拳に集まっていくのがハッキリと見える。


……こりゃ、とんでもないのが来そうだな。


「おいおいおい。アホウの奴、尋常じゃないぞ。あいつ不味いんじゃないか?」


「Fランクじゃ絶対受けられないだろ。あんな力」


「あいつ絶対死ぬぞ」


アホウの拳が強く光る。

その圧倒的輝きと収束していくパワーを目にし、周囲の人間は俺の死を確信していた。


実際、俺自身、ちょっとやばいかなと思わなくもない。


だが、一度は失った命だ。

今更惜しむ必要はない。

全身全霊で受け止める覚悟を決め、俺も拳に紋章の力を集約させる。


「最後に聞く!降参する気はあるか!!」


奥義を放つ前に、アホウが最終確認をして来た。

ほんと、見た目に寄らずいい奴で、思わず苦笑いしそうになる。

とは言え、答えは同じだ。


「遠慮なく来な」


「そうかよ……じゃあ行くぜ!破山拳!!」


奴が拳を力強く突き出すと――


「――っ!?」


拳の形をしたオーラが、大型トラックサイズになって俺に襲い掛かる。

直撃すれば、守りに徹しても確実に死ぬレベルの攻撃だ。


ならどうするか?

もちろん打ち砕くのみだ。


この技の威力は確かに凄まじい。

単純な正面衝突では、圧倒的にパワーで劣る俺が凌ぐのは難しいだろう。


だがアホウの攻撃は広範囲に影響する――言ってしまえば【面】だ。

ならば俺はその面を、点で穿って突破する。


「オラァ!!」


巨大な拳に向かい、紋章の力を乗せた全力の拳を叩き込む。

いや、正確には拳ではない。

人差し指を立て、その力の全てを一点に集約した攻撃だ。


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


――指先一点に集めたワーで点穴を穿つ。


アホウの放ったスキルに小さな穴が開く。


「このまま――」


その瞬間、パワーを指から腕全体へと広げる。

そして指を起点に、自身の拳を空いた穴へと突っ込んで押し広げた。


「突き抜ける!!」


更にオーラを全身に広げつつ、穿った穴に強引に体を突っ込ませる様に、俺はアホウの破山拳を突き抜けた。


「馬鹿な!?俺の破山拳を突き破ったと言うのか!?」


「決めるぜ!!」


そのまま止まる事無く突っ込み、俺は驚愕に固まるアホウの顔面に拳を叩きつけた。


「がぁっ!」


――拳を受けたアホウが大きく吹き飛んで倒れる。


奥義を放った事で、奴の身に纏っている力は大きく減少してた。

そこに顔面パンチを喰らわしてやったのだ。

もう立ち上がっては来れないだろう。


「俺の……勝ちだ!!」


俺は自らの右手を天に突き上げ、勝利を力強く吠える。


……この世界は最高だ。


大技を破った事による充足感は、熊を倒した時の非ではない。

これ程の感覚は、地球ではきっと得られなかっただろう。


しかも、これでまだ最下級である戦士級のCランクと来てる。

上がまだまだいると思うと、冗談抜きでワクワクが止まらなかった。


「よし!俺は強くなるぞ!!」


異世界に来れて本当に良かった。

そう噛み締めながら、俺は自らの所信を天に向かって吠えるのだった。

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