第3話 挑発

街は中世のヨーロッパっぽい。


何故中世のヨーロッパ”っぽい”なのかは、俺が本物を見た事がないからだ。

だから、俺の感想は石畳やレンガっぽい造りからそうイメージを抱いているに過ぎない。


因みに、住んでる人種は多種多様だ。

アジア人っぽいのもいれば、西洋人っぽいのもいる。


またポイである。

まあ異世界なので、厳密な意味では別物だしな


「あんたがアホウか?」


街の北側にある大きな酒場。

そこに辿り着いた俺は、迷わず奥の席に座っている一団に声をかけた。


真昼間から酒を飲んでる一団。

その真ん中に座っている中心的人物――金髪モヒカンで、頬にでかい刀傷のある筋肉質の男がアホウで間違いないだろう。


こいつだけがCランクで、それ以外のバトラーは全員Dランク以下だからな。


「ああん?何だテメーは?」


柄の悪い顔を歪めて、アホウが威嚇して来た。

凄く殴り甲斐のありそうな顔である。


「俺の名はタゴサク。お前に勝負を申し込みに来た」


「はぁ?」


俺の言葉の意味を飲み込めないのか、アホウが首を首を捻る。

取り敢えず、知能は想像通り低そうだ。


「ぶっ……ぎゃははははは!こいつマジかよ!」


「おいおいおいおい。お前Fランクだろ?ゴミじゃねぇか」


「ぶはははは。頭いかれてんじゃねーか」


アホウと同席していた男達。

それに傍の席で俺の言葉を聞いたと思われる、バトラー達が盛大に笑いだす。


まあ俺は紋章だけで言うなら、最低ランクだからな。

そういう反応も仕方がない事だ。


「テメェ……死にてぇのか?」


やっと言葉の意味が飲み込めたのか、アホウが手にしたグラスを握りつぶして俺を睨みつける。

普通の人間がそれをやれば、手がずたずたになってしまうだろう。

だが、紋章の力で肉体が強化されているアホウの手には掠り傷一つついていない。


「俺は今腕試ししててな。Cランク‟程度”が丁度いいんだ。まあ怖いなら、断ってくれても良いぜ」


我ながら安い挑発である。

だが頭の悪そうなこの男になら十分だろう。


この手の輩は、やたら面子を気にするからな。

衆人環視の中馬鹿にされて、手を引くなんて真似は出来ない筈。


「ゴミ野郎が……本当に死にたいらしいな」


俺の安い挑発に、アホウが鬼の形相で椅子から立ち上がった。

その拳が怒りに震えているので、本気でぶちぎれているのが分かる。


「おいおいおい!正気か!?テメー本気でアホウの兄貴に殺されるぞ!?」


「早く土下座しろ!兄貴は洒落で済ましてくれる人間じゃねーんだぞ」


バトラー同士の決闘は、死んでも自己責任だ。

文字通り、殺される可能性がある。

それをわざわざ周囲の奴らが忠告して来る辺り、此処の連中はがらの悪そうな見た目に反して、死傷を良しとする程残酷では無い様だ。


「今ならまだ間に合う。早く謝っとけ!」


そいつらがしきりに、俺に謝罪するよう言って来る。

が、当然――


「謝る必要なんてないだろ?俺が勝つんだからな」


「「「……」」」


俺の更なる強気の発言に、周囲が呆れた顔で押し黙った。

馬鹿に付ける薬はないとでも判断したのだろう。


ま、なんでもいいさ。

俺の言葉が戯言かどうかなど、直ぐに分かる事だからな。


「中じゃ店に迷惑がかかる。表に出な。広い所に行くぞ」


そう告げ、俺は店から出ていく。

その後を、今にも噴火しそうな程真っ赤な顔をしたアホウが付いて来る。


「さて、此処でいいか」


ちょっとした広場の様な場所にまで来た俺は、振り返ってそうアホウに告げる。


周囲には野次馬が集まっていた。

雰囲気から決闘を察したのか、酒場の人間が吹聴するかしたのか。

まあそれはどちらでもいいだろう。


「言い残す言葉はあるか……カスやろう」


「ないな」


アホウの怒りを押し殺した声に、俺は軽く答える。

残す必要などない。

何故なら、俺が勝つからだ。


まあもちろん絶対ではない。

Cランクと戦うのは初めてな訳だし、想定以上の強さに俺が殺されない保証はない。


だが、戦う前から負ける事を考えるなど愚の骨頂だ。

やるからには、自らの勝利を信じて戦うのみである。


「おい、あいつFランクだろ。正気か?」


「アホウ相手に何考えてんだ?」


「いるよな。頭のおかしい奴って」


周囲の雑音。

それを無視して、アホウに向かって伸ばした手の指先を動かし、俺は奴にかかって来いと挑発する。


「死ぬ準備は出来たか!今殺してやるよ!」


怒り心頭。

頭から湯気が上がりそうな形相で、アホウが突っ込んで来る。


さて、Cランクの実力パワーがどの程度か確認させて貰うとしようか。

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