6

 

 

(ノインさん、おめでとうございます)


 ありがとう。


 私にしか見えていないけれど、エルモアも式に参加してくれている。

 なんたって、私たちを繋いだのはエルモアだからね。

 出席してもらわなきゃ気が済まなかったのよ。クピドの姿も結婚式って場に合うし、いるだけで祝福されてる感じがするのもいいところよね。


(ノインさん……)


 ごめんなさい。ちょっとアンコが出ちゃった。


(ふふふ。懐かしいですね。初めてお会いしたときを思い出しました。よくここまで……あれ? なにか変です……ちょっと様子を見てきます!)


 え? エルモア?


 エルモアが姿を消してすぐに、太陽の側に黒い点のようなものが幾つも見えた。

 それが段々と大きくなってくる。


 まだ午前中。太陽は北東の方にある。

 その方角にあるのは二つの国。デルフィナ王国と、オルファニア帝国。


「なんだあれは?」


 祝いに訪れてくれているデルフィナ国王のゼルビアおじい様が言った。

 そう、デルフィナ王国からは賓客が訪れているのだ。つまり、あれは——。


 歓声が止み、戸惑うようなざわめきが広がる。


「皆の者! すぐに避難せよ! 敵襲だ!」


 ノルギスお父様が民衆に向かって叫んだ。悲鳴が上がり、民衆が逃げ惑い始める。

 だけど、混乱はアデル先生が率いる兵たちによってすぐに収められた。

 迅速に避難誘導が進められる中、ゼルビアおじい様がバルコニーの壁に歩み寄り、表情を怒りに染め上げた。


「この魔力……ルリアナじゃ!」


 黒い点は、翼を羽ばたく竜のような影に姿を変えていた。

 おそらく、ワイバーン。図鑑の下手な絵とそっくりだわ。


「よりにもよって、この日を選ぶか! 招きもせんのに現れよって! どこまで親を馬鹿にすれば気が済むんじゃ! ノルギス王! わしにも手を貸させてくれ!」


「願ってもない! 感謝いたす!」


 ゼルビアおじい様が手にしていた杖を掲げて呪文を唱えだす。すると供をしているエルフの護衛たちがゼルビアおじい様の側に集い、一緒になって呪文を唱え始めた。

 間もなく、王都が半球状の透明な膜に覆われた。


「防護壁を張った! ノインよ、婿殿と共に城内に避難せい!」


「嫌です! 私も一緒に戦います!」


「空からの急襲は厄介じゃ! 戦況が落ち着くまでは命を守ることを考えよ!」


「ノイン! わしも同意見だ! 装備を整え、反撃に備えるのだ!」


 ノルギスお父様も、ゼルビアおじい様と同じく私に厳しい顔を向けた。


「ルシウス! ノインが無茶をせんように見ていてくれ! 判断は委ねる!」


「分かりました!」


 ルシウスが素早く私のことを抱え上げて城内に向かい駆け出す。


「頼んだぞ、ルシウス! 我が息子よ!」


「お父様!」


 私は手を伸ばして叫んだ。ノルギスお父様は微笑んで背を向けた。

 間もなく私たちは城内に入り、バルコニーの扉が閉じられた。

 

 

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