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 *



 数カ月が過ぎ、春になった。

 健康を取り戻し、体の扱いにも慣れた私は、今日、十六歳の誕生日を迎えた。今は生誕祭と復帰後初のお披露目の為に、城のバルコニーに出ている。


 でも、実はその為だけじゃない。


 隣には式典用の白いタキシードに正装したルシウス。晴れ渡る空の下、いつも以上に輝いて見える。ああ、駄目だ。今からもう泣きそう。


 私たちは今日、結婚式を挙げる。

 私の目覚めを祈ってくれた国民に向けてのサプライズだ。

 みんな、喜んでくれると嬉しいけれど……。


「緊張する……」


 純白のドレスとヴェールを震わせていると、そっとルシウスが手を握ってくれた。


「それも分かち合おう。僕は何があっても君と一緒だ」


「ルシウス……」


 私が感動に打ち震えている間に、ノルギスお父様が、城の堀の側にひしめく民衆に向かって両手を広げた。その途端、水を打ったようにざわめきが消えた。


「皆の者! 我が娘ノインが目覚めたことは聞き及んでいるだろう! これまで姿を見せなかったのは、まだ目覚めたばかりゆえ、体を厭ってのことであったのだ! わしの采配によって、余計な心配をかけたことを詫びる! だが、それは皆とより大きな歓びを重ねたいという思いがあったからなのだ!」


 ノルギスお父様が、私とルシウスに顔を向けて頷く。

 私はルシウスと顔を見合わせた後で、バルコニーの壁の側に歩み寄った。

 民衆の間で、ざわめきが広がる。それに構わず、ノルギスお父様が叫んだ。


「我が娘ノインと、このガーランディアの為に身命を賭して働き続けてくれた、旧アラドスタッド帝国第七皇子、ルシウス・アラドスタッドの婚礼をこれより行う!」


 その宣言の後、空気が震えるほどの大歓声が起こった。

 祝福の言葉が叫ばれ、両手を組み合わせて祈る人の姿も見て取れた。


「みんな、君のことを待ってたんだよ」


 ルシウスが私に囁いた。私は、胸が熱くなって言葉が出なかった。

 こんなに愛されているんだと実感して、涙が止められなかった。


「見よ! 今日のよき日を、太陽も祝福してくれている!」


 ノルギスお父様が空を仰いだ。私とルシウスも頷き合って太陽へと目を向ける。その眩しさに目を細めながら、私は涙を拭い、幸せを与えてくれたすべてに感謝を捧げた。

 

 

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