ドルモアの恣意(1)

 

 

 数時間前――ベルモンド山上要塞の上空に、百騎のワイバーンを駆る竜騎兵が現れた。率いているのは、新生アラドスタッド皇帝ゲオルグ。実兄のドルモアと違い、粗野で屈強な印象を与える容姿で、見た目通りの獰猛な性格をしている。


 ゲオルグは全身を覆う漆黒の鎧を鳴らしつつ、手信号で部下に待機を命じ、一人要塞の屋上に降り立った。間もなく要塞の扉が開き、ドルモアがルリアナを伴って現れる。


「ゲオルグ、何をしに来た?」


 ドルモアはワイバーンから降りるゲオルグに歩み寄りながら苛立たしげに訊ねた。心中ではゲオルグを今すぐにでも殺してやりたいという暗い憎悪が渦巻いていた。


 当初、ゴーレム兵の進行だけで勝利を得るはずだった戦争が既に十年以上続いている。これはドルモアにとって想定外の事態だった。

 ルリアナを利用して仕込んでいた策が失敗に終わったことは些事。ギリアムに命じたマーマンの軍勢との挟撃が果たせなかったことも問題ではなかった。

 いずれも最低限の被害は与えていた上、ギリアムに至っては敵国の要であるノインを昏睡させている。むしろ想像以上の成果を上げたとドルモアは歓喜に震えた。


 幼少の頃に拾った星の欠片。そこに宿る邪悪。外界の徒の導き。

 星の命を食らい、やがて成り代わる。秩序のない混沌とした世界の創造。

 それが果たされるまで、あと僅かであると哄笑していた。


 そう、七年前、ゲオルグがルイン討伐などという余計なことをするまでは――。


 ルインに手を出した。ただそれだけで新生アラドスタッド帝国の国力が激減した。ゲオルグに応援を求められ、事態を重く見たドルモアは止むなくゴーレム兵をルインに差し向けた。だが、結果は惨憺たるものだった。


『怖ろしい力だ。奴は倒せん。後に必ず障害になろう。すぐに異世界に送れ』


 外界の徒の導きに従い、ドルモアはルインを異世界に転移させた。それにより野心の礎である外界の徒の力は大幅に減ってしまった。歳月を経る毎に、敵の国力が増加し、ゴーレム兵の補修と出兵のサイクルが上がっているというのにである。


 ドルモアは常人離れした魔力を身に宿しているが、限界はある。外界の徒の力も尽きかけている今、これ以上の厄介事を受け入れる気はなかった。

 ゆえに、くだらないことを口にすれば、ゲオルグを即座に殺すと心で決めていた。

 

「兄者、悪いがゴーレム兵を貸してくれ。反乱軍の勢いが増して、もう手に負えん」


 ゲオルグがそう口を開いた途端、ドルモアはゲオルグに手の平を向けた。

 

 

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