5

 

 

「なっ⁉」


 私は、アデル先生のみぞおちに木剣の柄を打ち込むと同時に、体を回転させて背後に回り込む。アデル先生の背中が視界に入ったところで、膝裏を蹴る。


 関節への攻撃は、非力でも抗えない。アデル先生はカクンと膝が折れてバランスを崩す。それを見ながら、私は後ろに跳ぶ。ここまでが私の仕事。


 アデル先生の驚いた声を久し振りに聞いたな。

 でも、まだ終わってないのよ。驚くのはここから。


 ディーヴァが、私に向き直ったばかりのアデル先生の側面から突進する。


「ぐぅっ!」


 アデル先生は私に気を取られていたみたいで、ディーヴァの突進に気づくのが遅れた。慌てて木剣で防いだのは流石だけど、ディーヴァにのしかかられて動きが止まっている。


《アスラはもう大丈夫よー》


 丁度よくシクレアが戻ってくる。本当、頼りになるわ。


「アデル先生、アスラが復帰しますよー?」


「それは困る! 参った!」


 訓練場に歓声と拍手が起こる。アデル先生をやっつけるとこうなる。七歳の少女相手に容赦なく襲い掛かるんだから、傍目から見ればアデル先生は悪者になっちゃうのよね。私は勉強になるから、そこは気の毒だわ。


「ノイン! すごいよ!」


 ルシウスが私の脇に手を差し入れて持ち上げる。そして抱きしめる。嬉しいんだけど、審判の仕事そっちのけじゃない。せめて終了の合図は言わないと。


 まぁ、いいか。幸せだし。


 私は仲間たちに体へ戻るように頼んだ。アスラはシクレアに回復されていたけど、頭に血が上ったことを反省してしょんぼりしていた。


「ルシウス、アスラを慰めてあげて」


「ああ、喜んで。アスラ、元気だして」


 アスラはルシウスが大好きなので、体に戻さずルシウスに任せた。ルシウスもアスラをすごく可愛がってくれる。どちらからも、一緒に過ごしたいという要望が出されるくらい仲が良い。考えてみれば、ほとんど毎日一緒にいるかもしれない。


 男の友情ってやつね。


《お疲れー。あ、ノイン、今晩って暇?》


《夕食とお風呂のあとなら大丈夫だよ》


《じゃあ、済んだら呼んで。ディーヴァと一緒に行くから》


《すみません、ノイン様。ちょっと相談があるんです》


 こっちは女の友情。女子会のお誘いね。

 人も魔物も変わらないってのがよく分かるわ。


 この日の女子会で、ディーヴァに妊娠を打ち明けられた。

 私はシクレアと一緒に大喜びしてお祝いした。という訳で、ディーヴァには無理しないようにしばらくお休みしてもらうことにした。無事に元気な赤ちゃんを産んでもらいたいからね。かわいいんだろうなぁ。ああもう、今から楽しみだ。

 

 

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