6
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翌日、ノルギスお父様とアデル先生の承諾をもらい、私とルシウスは外出した。
目的は、ディーヴァが抜けた分の戦力補充。シクリアの話だと、私の中の住処は三年前と比べて随分と住みやすくなったのだとか。
《ねぇ、気になってるんだけどさ、私の中ってどうなってる訳?》
《そうねぇ、一言で言うと、大きな箱ね》
女子会のとき、シクレアとそんな会話をしたのだけど「箱?」と訊き返さずにはいられなかった。詳しく説明してもらったところ、最初に入ったときは、湖、海、草原、森、洞窟など、ありとあらゆる環境の大部屋があったそうだ。そのうちの一つを選ぶと、他は消えてしまったらしい。シクレアは花畑のある森を選んだのだとか。
《アスラとディーヴァは?》
《私たちも森を選びました。部屋は別ですけど》
《え、それじゃ、アスラとディーヴァは別居状態ってこと?》
《いえ、通路は繋げられるので、私たちは一緒に暮らしています》
《ちょっと待って。そしたら、一つは空き部屋になってるってこと?》
最初は三体までしか仲間にできないとエルモアから聞いていた。それが部屋の数と同じなのだとしたら、空いた一部屋に、もう一体を入れられるのではないかと思った。
だけど、そういう訳ではないとシクレアに肩を竦められた。なんでも、真名が刻まれてしまった部屋は、新たな魔物を入れることはできないとのこと。
つまり、真名を刻んだ三匹は互いの部屋の往来が可能だけれど、三匹が一部屋で暮らしたとしても、残る二部屋が空き部屋という扱いにはならないらしい。
現在は、新たな空き部屋が二部屋できているということなので、それなら新しい仲間を探しに行こうという話になった訳だ。
それで、アスラに二人乗りして魔物がいるところに向かっているのだけれど……。
「ノイン、決まった?」
「うーん……」
私は困っていた。考えてみれば、自分から魔物を仲間にしようとするのは初めて。
なので、思い切り悩んでしまっていた。
それで、途中にあった村の食堂の席に着いて、魔物図鑑を開いて唸っている。
まだお昼には早いけど、図鑑をめくってたら時間なんてすぐ過ぎそう。
はぁ、本当に、どうしようかしら? モヤモヤする……。
「何をそんなに悩んでるの?」
ルシウスが訊いてきた。
私は溜め息を
「それが、よく分からないの。シクレアも、アスラもディーヴァも、選んだ訳じゃなくて、必然的に仲間になってくれた感じだったから、こんな風に選ぶってなると、なんだかモヤモヤ変な感じがして、どうしても決められなくて」
「あぁ、そういうことね」
「そういうことって?」
私が首を傾げると、ルシウスは苦笑した。
「ノインは、買い物をしているみたいな気分で、納得できないんだと思うよ」
「あ……」
言われて初めて気づいた。このモヤモヤした感じは何なのかと思っていたけれど、カタログを見て選んでいるように感じて受け入れられなかったのだ。
前世で、ペットショップのケージに入れられている子犬や子猫を見たときも、似たような感覚に襲われたことがあった。
そこで運命的な出会いを果たすこともある訳だから、批判的な思いは抱かなかったけど、それでもどこか納得できない部分があるのだと思う。
「なんだろ。モヤモヤの理由が分かったら、余計に困っちゃった」
そう言って苦笑したとき、注文したお勧めが運ばれてきた。
焼いたジャガイモとソーセージ。あとはオニオンスープ。
ルシウスが、フォークでジャガイモを突き刺して顔の前に運ぶ。
ほかほかと湯気が上がっている。すごく熱そう。
「ねぇ、ノイン、料理ってさ、買ってもなんとも思わないでしょ?」
「え? う、うん、そうね」
「それは死んでるからなんだよね。生き物じゃないから、抵抗がないんだよ」
私はジャガイモとソーセージを見つめる。植物も広義の意味では生き物だ。
確かに、言われてみれば、今私の目の前には死体が並んでいる訳だ。
なのに、実感も不快感も湧かない。
ただ美味しそうと思うだけで、まったく抵抗はない。
ルシウスはジャガイモをフーフーしてから続けた。
「生き物を売買するとなると、途端に抵抗が出てくるよね。それは、意識があるからなんだよね、きっと。相手に共感できる心を持っている人ほど、抵抗は強くなるんだと思うよ。僕もそうだから、ノインの気持ちがなんとなく分かるんだ」
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