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 アデル先生は、火と土の魔法を使う。攻撃と防御に優れた力。こちらから誰かが攻撃すると、躱し、受け、土の防壁の三つで防ぐ。そこに火の球の牽制が加わるから、すごく厄介。同じ魔法を使う兵は割といるんだけど、アデル先生とは比べ物にならない。魔法の展開速度と扱い方に大きな差があるし、何より身体能力と動体視力が段違い。

 ノルギスお父様が言うには、難攻不落の城攻めをしている気分になるらしい。私はそんなのしたことないけど、言っている意味は分かる。

 思ったように攻撃できないから、苛立つのよ。それを我慢するのが大変。頭に血が上ったら、あっという間に攻守逆転しちゃうから、努めて冷静にしてなきゃいけない。


 ノルギスお父様は、土の防壁ごとぶっ壊しちゃうから、頭に血が上っても大丈夫なのが羨ましい。細々と攻撃を続けるのはすごく神経がすり減るのよね。


 それにしても、本当にアデル先生の対応力はすごいと思う。


 アスラのスキルは地面や壁から飛び、ディーヴァのスキルは空から降る。加減はしてるけど、しっかり斬撃の効果は残ってる。まともに受ければ木剣は折れてしまう。

 アデル先生は、二匹の直接攻撃は木剣で受け流し、スキルは土の防壁と躱しで対処。死角からでも、掠る程度で済ませてしまう。

 それをされる度に、毎回、後ろに目でもあるのかと思わせられる。

 魔力の流れを読み取ってるとかいう話だけど、私にはそれを理解することができない。だって私、魔力持ってないからね。羨ましいばかりだわ。


《ええい! 煩わしい!》


《あっ、アスラ、駄目!》


 アスラが痺れを切らしてしまった。アデル先生に突進、影斬、牙、爪、と単独で連続攻撃を仕掛けていく。アデル先生はすべてに対処した。

 狭い範囲で動き回り過ぎて、ディーヴァが援護を挟む隙がなかった。


《まずいわね》


 シクレアが飛んでいく。と同時に、アデル先生の木剣がアスラの胴体に打ち込まれた。アスラの体が吹き飛び、地面を転がる。


「よそ見はいけませんよ!」


 ほんの一瞬、視線を外しただけで、アデル先生が目の前まで迫っていた。木剣は腰。抜刀からの横薙ぎみたいな攻撃がくると判断し、私はアデル先生の懐に飛び込んだ。

 手元に踏み込めば、剣は振るえない。

 私は小さくて非力だ。その欠点を利点に変えさせてもらう。

 

 

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