12

 

 

 *

 

 

 目覚めると、洞窟の部屋の中にいた。

 どうやらルシウスが運んでくれたらしい。

 側で寝息をたてていた。とても、かわいい寝顔だ。


 いつまでも見ていたいけど、そういうわけにもいかない。

 シャドウウルフたちがどうなったか見に行かないと。


 私は眠気を我慢してふらふらと立ち上がり、暗がりの中を歩いた。

 寝ていたからか、目は闇に慣れていた。

 お陰で椅子やテーブルに体をぶつけることなくドアの前に行けた。


 そっとドアを開けて部屋を出ると、シャドウウルフが蹲っていた。

 体にいくつも傷がある。深くはなさそうだけど、毒が回ってるのよね。

 早く治療しないと。

 歩み寄ると、シャドウウルフが気だるそうに私の方へ顔を向けた。 


《起きたのか》


《えぇ、ごめんなさい。レッドキャップは?》


《ああ、どうにか殺せたが、このざまだ》


 シャドウウルフの傍らには、ゲルナ草があった。

 私はそれを拾い上げる。


《これ、積んできてくれたの?》


《いや、あの人間がくれた》


 ルシウスが……。

 あの少年皇子は、一体どれだけ私を胸キュンさせるつもりなのか。

 でも今はそれどころじゃないわね。


 私は手の平を上に向け、シクレアに呼びかけた。

 すると手の平から二十センチくらいの小さな美少女が出てきた。

 背中に、ベビーマンティスとよく似た翅が四枚生えている。


《ふぁあ、よく寝たわ》


 シクレアは欠伸をしながら、目一杯に伸びをした。

 茶色のボブヘアで、花を逆さにしたような、真っ白なドレスを着ている。


《あら、私、人みたいになってるわ。興味深いわね》


《ピクシーに進化してもらったの。それで、早速なんだけど》


 私はゲルナ草をシクレアに見せる。

 シクレアは表情を引き締めて頷いた。


《分かったわ! 任せておいて!》


 そう言うと、シクレアは躊躇いなくゲルナ草をむしゃむしゃと食べ始めた。


《うん、ゲルナ草で間違いないわ。だけど、うぅ、苦いわね。興味深い味だわ》


《ごめんね、シクレアしか頼れないの》


《気にしないで。これも勉強よ。いろいろ知れて嬉しいもの》


 シクレアは私の手からゲルナ草を何本か束にして抱えると、素早くシャドウウルフの側に飛んだ。翅がほのかに青く光っていて、闇を照らす帯を引く。


《俺はいい。先にあいつを》


《何言ってるのよ! 今はあなたの方が重傷なんだからね!》


 シクレアはシャドウウルフの傷の側を飛び回り、淡い青色の光の鱗粉を撒き散らした。それをしながら、むしゃむしゃとゲルナ草を食べている。


《おお、体が楽に……》


 シャドウウルフの体の傷が塞がっていく。


《ごめん、今はそれだけで我慢して。残りは明日ね》


《ああ、十分だ》


 シクレアは、ライトウルフの方に向かい、また同じことをした。

 私はそれを眺めているうちに、まぶたが重くなってきて——

 

 

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