11


 よし、準備オッケーよ!


 外に出ると、シャドウウルフとレッドキャップはいなくなっていた。

 場所を移したみたいね。好都合だわ。

 これで心置きなく、ルシウスの援護ができるってものよ。


 私は大きく振りかぶって、ゴブリン二匹のいる方向へ石を投げた。

 石は狙い通りに高く飛んだ。

 だけど、力が足りなくてゴブリンの手前に落ちてしまった。

 ドッと音がして土が跳ねる。


 大変! 失敗しちゃった!


 石に気づいて、ゴブリンがこっちを見た。

 その瞬間、ルシウスが短剣を手にして飛び掛かっていた。

 ルシウスはゴブリンの首を斬りつけて、すぐに後ろに下がる。


「ギギギャア!」


 紫色の血飛沫が上がって、斬られたゴブリンが逃げ出した。

 その後ろを、シクレアが飛んで追いかけていく。

 残りの一匹は困惑した様子。逃げるゴブリンとルシウスとを交互に見ている。


 今がチャンスね!


 私はそれを見ながら少し近づいて、また石を投げた。

 今度はしっかり当たった。三歳児だけど、割と飛ぶものね。

 ゴブリンが驚いた様子でこっちを見る。

 その隙に、ルシウスがゴブリンの胸に短剣を突き刺した。


「グギャアッ!」


 ルシウスは短剣を引き抜くと、叫び声と血飛沫を上げるゴブリンを無視して、一目散に私の方へ駆けてきた。近くにくると嬉しそうに両手を広げた。


「ノイン! 君、すごいよ!」


 ああっ、なんて笑顔なの!

 表情の眩しさに目を細めていると、私の両脇に手を入れて抱き上げた。


「びっくりしたよ! こんなに小さいのに投石もできるんだね!」


「ル、ルチウちゅ! まだ終わっちぇない!」


 そう言って指差したけど、ちょっと目を離した隙に、唖然とする光景に変わっていた。いつの間にか戻ってきていたシクレアが、ゴブリンを襲撃していた。

 ゴブリンは、あたかもスズメバチに襲われる人のように、ぎゃあぎゃあ悲鳴を上げて、逃げようとしていた。だけど、ほうほうの体、叶わず。

 ばたりと倒れて、その上に止まったシクレアの鎌にチクチク刺され続ける。


「うわ、あれはゴブリンより怖いね……」


「そうだにぇ……」

 

 ゴブリンが動かなくなると、シクレアは翅を広げて飛び上がり、意気揚々と私たちの元へと帰ってきた。なんだか黄色っぽい。淡く光って見える。


《ノイン! なんか変な感じがする! あなたの中に戻るわ!》


 そう言うなり、シクレアは私に体当たりするようにして浸透した。

 変な感じって何――。

 ドクン、と心臓が大きく脈打った。


【必要経験値に到達しました】

【進化先を選んでください】


【マンティス】

『ランクCの大型魔蟲に成長。スキルC大鎌を取得』


【ピクシー】

『ランクDの小型魔精に成長。スキルC治癒を取得』


【アルラウネベビー】

『ランクDの小型魔花に成長。スキルC誘因を取得』


 音声ガイダンスと表示が出てきたけど、シクレアは何になりたいんだろう?

 こっちで決めていいなら、スキルで見てピクシーで決まりなんだけど。


 心の中で呼びかけてみると、《任せるわ》という返答があった。

 なので、ピクシーで決定した。


【進化開始します】

 

 その音声ガイダンスと表示が見えた途端、私は酷い眠気に襲われた。


 あ、駄目。立ってられない。


 最後の力で地面に座った直後、目の前が真っ暗になった。

 

 

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