10


 *



 ルシウスに声を掛けて、私たちはシャドウウルフと一緒に洞窟を出た。

 それで滝壺の方に向かおうとしたのだけど、そこには先客の姿があった。


 二匹は棍棒を持った小柄な緑色の人。ゴブリンね。

 一匹は赤い帽子を被っていて、手にはナイフを持っている。


《レッドキャップだ!》


「ノイン、下がって」


 シャドウウルフとルシウスが臨戦態勢をとる。

 私は小声で注意してくれたルシウスの背に隠れた。

 肩の上で、シクレアが跳ねる。


《酷い! あれじゃ水が駄目になっちゃうわ!》


 ゴブリンが二匹、滝壺に顔を突っ込んで、がぶがぶと水を飲んでいる。

 レッドキャップは周囲を警戒している。


 よく見ると、ナイフが紫色に染まっている。

 確か、レッドキャップって普通のナイフを持っているはずなんだけど。


《ねぇ、シャドウウルフ、あのナイフって何?》


《分からん。あれに斬りつけられて、俺のつがいは、あんな風になったんだ》


 シャドウウルフも分からないってことは、訊くしかないわね。

 だけど、どうしようかしら。

 私の目に映る光は赤が三つ。それも真っ赤。

 交渉しても大丈夫なのか分からない。


「ノイン、どうしたの?」


 私がどうしたものかと唸っていると、ルシウスが訊いてきた。


「あにょね、ナイフが変にゃの。毒がにゅられてるの」


「それなら、この辺りにいるポイズンワームを潰して塗ってるんだと思う。ゴブリンの中でも、一部はそういうことをする知恵があるって聞いたことがあるよ」


「そうにゃの⁉」


 ルシウスが「うん」と頷く。


「そういう敵は、危険だって聞いてる。ノインは魔物と話せるのかもしれないけど、そういうのは相手にしない方がいいよ。騙し討ちされちゃうと思うから」


「うん、わかっちゃ」


 今回、私の出番は、なしみたい。

 シャドウウルフとルシウスに任せることにした。


《おい、俺は行くぞ?》


《うん、頑張って!》


 シャドウウルフが、牙を剥いて素早く滝壺に向かい駆けていく。

 それを合図にするかのように、ルシウスも駆けていった。


《私も行くわね!》


 私の肩からシクレアが翅を広げて飛び立つ。そしてルシウスの隣に並んだ。

 シクレアに気づいたルシウスが自分から近づく。その肩に、シクレアが止まった。

 私は一度洞窟に戻って、手ごろな大きさの石を集めて出入口の側に運んだ。

 二個ずつ手に持って、蔓を除けて顔を出す。


 外を覗き見ると、レッドキャップとシャドウウルフが睨み合っていた。

 ゴブリン二匹の方は、ルシウスとシクレアのコンビと睨み合っている。


 任せようと思ったけど、やっぱり何もしないとウズウズしてくるものね。


 陸上で遠投もやってたし、石くらい投げて応援しましょうか。

 投石なんてやったことないけど、似たようなものでしょ。


 体は小さいけど、たぶん大丈夫なはず。

 私はドレスの袖をめくり上げ、ぐるぐると肩を回して調子を確認する。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る