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部屋の外では、シクレアが腕組みするように鎌を交差して待っていた。
《ノイン、あなた、薬草の知識はあるかしら?》
《え、そうね。植物なら、ある程度は分かると思うけど》
本を読むことができるようになったのは、文字を覚えてからだった。
不思議なことに、生まれたときから耳に入ってくる言葉は問題なく理解できた。
なぜかというと、日本語だったから。だけど、文字は読めなかった。
言語は日本語なのに、文字は日本語ではないという謎。
それで私は、一歳半からの半年を文字の習得に費やした。
この世界は識字率が低いらしく、文字の勉強に使えるような教本は存在しなかった。
頼んで持ってこられたのは辞書。だから、図鑑と辞書とを交互に見ながら、並行して知識を会得していった形。二歳からの一年は、図鑑だけに絞ったけどもね。
ただ、魔物にしてもそうだけど、とにかく載っている絵が下手。
シャドウウルフなんて、まったくシャドウウルフじゃないんだもの。
お陰で、自分の目で情報確認したときに驚いちゃったわよ。
もう少し、ちゃんとした絵師さんにお願いしたいわね。
《それで、薬草がどうしたの?》
《傷を見て毒の解析をしたんだけど、ゲルナ草って薬草を食べないと、解毒薬が作れないみたいなの。だけど、私はそれがどんな草なのか知らないし、この二匹も知らないって言うから困ってたのよ》
《そういうことね。大丈夫よ。ゲルナ草なら分かるわ》
確か、セージみたいな多年草だったわ。小さな紫色の花をいっぱい咲かすのよね。
あらゆる毒に対して薬効があって、解毒薬のベースになるって書いてあったからよく覚えてる。生存率に関わるものはしっかり記憶してるのよね。
森の中に、そういった感じの植物がないかをシャドウウルフに訊いてみる。
《紫の、と言われてもな……》
《ノイン、紫がどんな色なのか、私たちには分からないのよ》
色は分かるらしいけど、色の名前が分からないらしい。
なので、私は石を拾って、地面に絵を描いた。
棒を一本書いて、そこに鈴生りに小さな花を描いていく。
葉っぱは少し細めで尖った感じに。
《ん? これなら滝壺の辺りに生えていた気がするな。花はもう枯れているが》
《近いわね。善は急げよ。さっさと行きましょう》
シクレアに急かされて外に向かう。でも私は不安だった。
あの図鑑の絵、下手だったのよね。
一応、文字の方に重きを置いて記憶してはいるけど、大丈夫かしら。
私の表情から不安をくみ取ったのか、シクレアがどうしたのか訊ねてきた。
それで心配事をそのまま伝えたら、大丈夫と返答があった。
《私の解毒薬精製スキルはね、食べた植物の名称と成分が分かるのよ》
《えぇ⁉ なんて便利なスキルなの⁉》
シクレアを称賛すると、しれっと流された。
《マンティスベビーなら皆持ってるわよ。大したものじゃないわ》
クールなお姉さんだわ。年齢を訊いたら、二十八歳だった。
シクレア……。あなた、二十八年もののベビーだったのね……。
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