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部屋は思った以上にちゃんとしていた。
十帖ほどの広さで、通風孔らしきものもあって息苦しさがない。
おまけに家具まで置いてあった。
切り株のテーブル、丸太の椅子。あとは木製の食器がいくつか。
ベッドはないけど、毛皮は何枚か床に置いてあった。
良かった。これだけでも十分に助かるわ。
いちから作るとなると大変だもの。
私はそう思って、ルシウスの方を見た。
だけどルシウスは難しい顔をしていた。なんだか不満があるみたい。
「ルチウちゅ、どうちたの?」
「ちょっと、このままじゃ危ないと思ってね」
「あびゅない? なにが?」
ルシウスは何もないところから皮袋を取り出した。
えーっ⁉ 収納魔法まで使えちゃうの⁉
ときめいて、思わず両手を握り合わせてしまった。
シャドウウルフの脂……。
一瞬で現実に引き戻されるわよね。こういうときって。
ルシウスは皮袋の紐を解いて、私に中を見せてくれた。
そこにはハッカみたいな匂いのする白い粉が入っていた。
「これは、エリエントの葉の粉だよ」
「あ、むち除けにぇ!」
エリエントの葉の乾燥粉末は強力な虫除け効果がある。
そう図鑑に書いてあった。
ということは……。
ルシウスが空中に手の平ほどの水の塊を作り出し、その中にエリエントの粉を一握り入れて掻き混ぜた。そして、毛皮の上で霧状にして振りかける。
「ヒィッ⁉」
私は跳び上がってルシウスの背に隠れた。
毛皮から黒い糸のようなものが、うぞうぞと這い出してきたからだ。
それもかなりの量。千匹単位だ。
「うわぁ、さ、寒気がするね」
「ルチウちゅ! ありぇ、どうすりゅの⁉」
「あの虫はデニワームって言って、光と熱に弱いんだ。だからね」
ルシウスは光の球を作って部屋の中心で留める。
「こうやって駆除するんだよ」
「もち、あにょまま、毛皮をちゅかってたら?」
「刺されて血を吸われてたね」
思った通りの返答にゾワゾワした。
血を吸われた痕は痒みを伴うし、病気や寄生虫が媒介されることもある。
元の世界のダニや蚊と同じく、結構、危ない生き物らしい。
「うーん、埃もすごいみたいだし、一度しっかり綺麗にしないとね」
「そうにぇ。わちゃちは、なにしゅればいい?」
「何回か今と同じ作業をするから、ノインは部屋を出てた方がいいよ」
ルシウスはそう言って、光の球を私の側に近づけた。
私が動くと、一緒になって付いてくる。
「ノインに固定したから、暗い中でも歩けるよ」
「ありがちょう。なにかあっちゃら、呼んでにぇ」
ルシウスの「もちろん」という言葉を聞いてから、私は部屋を出た。
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