5
「いちゃーい!」
「大丈夫⁉ えっ、洞窟?」
ルシウスが私を抱え起こして周囲を見渡す。
私への心配は一瞬で済ませられたかと思ったけど、やっぱりルシウスは優しかった。
すぐに私のドレスから土を払い落として無事を確認してくれた。
「怪我は、ないようだね。地面が土で良かった」
本当だわ。言われて初めて気づいた。
もしゴツゴツした岩だったら大怪我してたかもしれない。
頭なんて打ってたら大変だったわ。慎重にしなきゃ駄目ね。
ただでさえ、幼児で魔法が使えないってハンデを背負ってるんだから。
「取り敢えず、中を……え⁉」
ルシウスが洞窟の奥を見て動きを止めた。
私もその方向へ目を向ける。
闇の中に、二つの光が並んでいた。
それは段々と大きくなってきた。獣の唸り声も微かに聞こえる。
蔓の隙間から差し込む光の中に、黒い毛に覆われた前足が出てくる。
《ほお、珍しい。人間か》
姿を現したのは、大きな黒い狼だった。
私の目には黄色い光が映る。注意した状態の魔物ね。
ルシウスが素早く私の前に立つ。そして腰に帯びた鞘から短剣を抜いた。
「ノイン、僕の後ろに隠れてるんだよ!」
はあっ、もう、最高! なんなのこの皇子様!
昔憧れたすべてが詰まってる!
ただ、私の視界がお尻で埋められるのはよろしくないわ。
かわいいお尻だけど、胸キュンが半減しちゃう。
ルシウスの勇姿を見るなら……あそこね!
私はよちよち駆けて、最も良いアングルになる位置に陣取った。
ここならルシウスと狼の両方が見えるわ。
ルシウスも狼もビクッてしたけど、お気になさらず。
「ノイン⁉ 何してるんだ⁉」
《変わった奴だ。自分から俺に近づいてくるなんてな》
狼が嘲笑するように鼻を鳴らす。
それはそうよね。自分の方が明らかに強いものね。
だけど、その油断が命取りよ。
こっちは伊達に長く生きてない。考えなしに動くわけないでしょ。
援護できるように、視界が広くとれる場所に移動したのよ。
だって、ルシウス一人に任せるわけにはいかないもの。
彼はまだ子供。守ってあげる存在が必要なんだから。
私は手の平を前に出して、魔物の言葉で呼び掛けた。
《シクレア、出てきて!》
手の平の上に、シクレアが出てきて構える。
すぐに状況を察してくれたようで、臨戦態勢をとってくれた。
《ノイン、興味深いときに呼んでくれるわね。大ピンチって感じじゃない》
《そうなの。悪いけど力を貸して》
《もちろんよ。大事な友だちだもの》
《ありがとう、シクレア》
私は地面に落ちていた石を拾う。シクレアはぴょんと肩に飛び移った。
前を向くと、ルシウスと狼がぽかんとしていた。
《お、おい。お前、今、喋ってなかったか⁉》
「ノイン、肩にマンティスベビーが、いや、えっと」
「ルチウちゅ、落ち着いちぇ。わちゃしに、まかせちぇ!」
ルシウスに声を掛けたあとで、私は狼に向き直る。
チェックさせてもらうわよ。
【名称】シャドウウルフ
【真名】???
【種族】魔獣
【性別】オス
【魔物ランク】D
【スキルA】影斬
【スキルB】隠身
【スキルC】???
【スキルD】???
隠身って、なんだか私たちに必要な気がするスキルね。
よし、交渉開始よ。
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