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「あ、ギリアム」
ルシウスが笑顔になる。でもエルモアが両手を交差させてバツ印を作り、仏頂面でかぶりを振る。なるほど、あのギリアムって青年はルシウスの命を狙う敵ってことね。
合点承知の助よ!
(ノインさん……)
エルモアがなんとも言えない顔をしたけど、生憎そんなことを気にする程メンタルがやわじゃないのよ私。前世で何度もそんな顔をされてきたんだから。
お前かよ、みたいなガッカリ顔をされることには慣れてるの。ただエレベーターに乗り合わせただけのおっさんからも、そんな顔されたからね。
そりゃ、直前まで美女の群れに紛れて歩いてたわよ。でもだからって見ず知らずのおっさんに、なんで私が落胆されるのよ。どう考えたって、エレベーターに乗らなかった美女の方が悪いじゃない。いえ違うわね。おっさん、あんたが一番悪いのよ。
「ちょうっ!」
腹立ち紛れに、洞から出ようとするルシウスの背中に飛びついて止める。
「わ、どうしたの、ノイン?」
「ちょっと待っちぇ! まだ出にゃいで!」
「だけど、早くここに居ることをギリアムに伝えないと」
ルシウスが体を揺らし始める。むぅ、私を振り落とす気ね。
エルモア、なんとかならない⁉
(なんとかと言われても、僕もちょっと予想外で……あ!)
腕組みして困り顔だったエルモアが、閃いたように目をぱちくりさせる。
(ノインさん『ギリアムはドルモアの手先だ』と言ってください!)
わかった! エルモア、ありがとう!
感謝したタイミングで、私はルシウスに振り落とされて、こてんと横に転がった。
やはり幼児。握力がないわ。
なんて、そんな分かりきった分析をしている場合じゃないわよね。
「ルチウちゅ、ギリアみゅは、ドりゅみょわの手ちゃきなの!」
ルシウスが「え?」と呟いて私を見る。どうしてそんなことを君が、と言いたげな顔をしているので、その隙を逃さず、私はルシウスの背中によじ登る。
「ノイン、何をするんだよ。どういうことなの?」
「しーっ、ちじゅかにちて!」
崖の上の草むらが揺れ、また一人現れる。
今度は黒ずくめのローブ姿。フードを被り仮面も付けている。たぶん男。
その姿を見た途端、ルシウスの表情が硬くなった。
「なんで……ギリアムがあいつと……」
ルシウスが呟いた。崖の上では、青年と黒ずくめの人が何かを話している。
私たちには聞こえないけれど、エルモアが内容を教えてくれた。あの二人は、ルシウスを殺したことにするらしい。遺体は魔物の餌にしたと伝えるのだとか。
(仕留め損ねたと言えば、自分たちの首が飛びますからね)
ギリアムってルシウスとどういう関係?
(彼はルシウスの護衛騎士です。でも第一皇子に買収されてしまって)
主人を裏切ったのね。あんな顔して、酷い奴ね。
ギリアムは短い黒髪で爽やかな印象のイケメン。悪いことなんて考えてなさそうに見えるけど、顔で判断しちゃ駄目よね。私も瓶底眼鏡ってだけでガリ勉だと思われてたけど、どっちかっていうと運動の方が得意だったから。人は見掛けによらないのよね。
(ノインさん、そろそろ僕は行きますね)
え? 子供二人残して?
(力を残しておかないと、次に危機が訪れたときに出てこれないですから)
エルモアはそう言って、蔓に覆われた壁に向かって飛んで行った。
そして壁を指差すと、くるりと宙返りして消えた。
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