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しばらくすると、滝の上の草むらが揺れ動いた。
ガサガサと茂みが掻き分けられて、私より少し大きいくらいの少年が姿を現す。
はぁっ、眩しいっ! なにあの美少年!
服装から見て、貴族以上であることが分かる。
服と同じ空色の髪。斜めに垂れた前髪がアクセントの短髪。健康的な色味を帯びた白い肌。クオリティ高すぎ……いえ、コスプレじゃないのよね。
少年は、足元が崖であることに気づいて足を止めた。
なんだか様子がおかしい。息を切らせて、しきりに後ろを気にしている。
エルモア、あの子、追われてるの⁉
(はい。彼はアラドスタッド帝国の第七皇子ルシウス・アラドスタッドです。第一皇子ドルモアの罠に掛かって、逃げているところです)
皇子⁉ こうしちゃいられないわ!
(あっ、ノインさん⁉)
私は木の洞から這い出て、よちよち走った。あんな美少年の窮地だもの。おとなしくしてたら後悔するに決まってる。もう、我慢なんてしないんだから。
「こっち、とびおりちぇ!」
ルシウスは私の方を見て、目を見開いた。そして、底の浅い溜め池と大差がない小さな滝壺に顔を向けた。それからまた背後を見て、すぐに私に視線を移す。
「ちゅうちょ、ちないで!」
私が両手を広げて叫ぶと、ルシウスは力のこもった目で頷いた。
崖の高さは三メートルほど。決して低くはない。
無理を言ってるのは分かるけど、今の彼に必要なのは背中を押してくれる誰かなはず。もたもたしてたって、追い詰められるだけよ。
少しくらい怪我したって、若いんだから、きっとなんとかなるわ。
「がんばっちぇ!」
私の声に合わせて、ルシウスは滝壺に向かって両手を伸ばし飛び降りた。
そこで滝壺の水が縦に膨らんだ。とぷん、と水が意思を持っているようにルシウスの体を包み、落下が潜水に変化する。ルシウスがゆっくりと滝壺に降り立つ。
魔法――それを初めて目にした私は呆然と立ち尽くしてしまった。口が開いていることに気づいて慌てて閉じる。王女がすることじゃないわ。はしたない。
ルシウスは濡れた髪を振って水飛沫を飛ばすと、崖の上に顔を向けた。
「こっち、こっち! いちょいで!」
私はルシウスに声を掛けながら手招きした。
ルシウスがすぐに気づき、滝壺から出て駆けてくる。それを見ていると、視界の端からエルモアがふわりと現れた。顔の前で人差し指を立てている。
(ノインさん、お静かに)
あっ、そうね!
私は口を覆って頷いた。大声を出しちゃ駄目よね。
目の前にきたルシウスの手を握り、よちよち歩いて一緒に木の洞に行く。
木が大きいから、二人で入っても大丈夫だった。
私は寝そべって草の隙間から様子を見る。ルシウスも並んで俯せになる。
「ありがとう、助かったよ。僕はルシウス。君は?」
「あちゃしは、ノイン。三ちゃい。ルチウちゅは?」
「僕は十二歳だよ」
小声で自己紹介をしていると、崖の上の草むらが揺れた。
「ルシウス殿下ー⁉ どこですかー⁉」
茂みを掻き分けて、体格の良い鎧姿の青年が顔を出した。
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