静かな森の出会い編

1


 景色が森の中に変わった。


 灰色だった世界が元に戻る。

 途端にポロポロと涙が溢れてきた。慌てて拭う。

 エルモアがふわふわと視界に入って、くるりと宙返りしてみせる。


(大丈夫ですか?)


 気にしないで。心は落ち着いてるから。体の反応が遅れただけ。


 私は周囲を見回す。開けた場所に立っているけど、辺りには木しかない。


(ここは、ガーランディア領の端にある静寂の森と呼ばれる地です)


 森なのは、見れば分かるけど……。


 この場所で、幼児がたった一人で生きていくというのは難しそうだ。

 近くに村でもあるのか訊いてみたけど、ないらしい。


(この先に洞窟があるんです。ついてきてください)


 エルモアがふわふわと飛んでいくので、かわいいお尻を追い掛ける。

 

 エルモアいいなー。飛べるの羨ましいなー。


(僕は実体がないですから。魔法でも飛べる人は一握りですよ)


 へー、そうなんだ。


 筋トレで体力はつけたつもりだけど、足が短いから、歩くのがもう大変。

 完全によちよち歩き。地面がふかふかしてるから、足をとられるのよね。

 

 けど、木漏れ日が気持ちいいわ。

 地球の森と、そんなに雰囲気は変わらないけど、なんだか落ち着く。

 それはそうよね。ずっと室内に閉じ込められてたんだもの。

 初めての自然に安らぎを覚えても不思議はないわよね。


 なんたって私、ハーフエルフだし。

 

 清々しさを堪能していると、微かに水の音が聞こえてきた。

 アイビーみたいな蔓に覆われた緑の壁が見えてくる。


(あちらを。水量は乏しいですが、小さな滝があります)


 滝? あれが?


 緑の壁の端っこに、岩肌が剥き出しになっている場所がある。

 近づいてみると、確かに水が流れていた。けど私の知る滝とは印象が違う。

 水量が乏しいって、こういうことか。壁を濡らすのがやっとって感じなのね。


(大雨が降っても、小さな滝ができる程度なんです。危険がないんですよ)


 それはありがたいわ。飲んでも大丈夫なの?


(いえ、地球と同じで、寄生虫や微生物がいます。魔力で悪さをするものもいますから、煮沸消毒や濾過をしっかりしないと具合が悪くなるかもしれません)


 煮沸かぁ……。


 考え込んでしまう。私、魔力がないから、火起こしとかできないんだよね。

 雨水を貯めようにも、器になるものもないし、幼児だから力もないし。


(大丈夫です。そこに隠れて、もう少しお待ちを)


 言われるままに、示されたところに身を隠す。

 そこは背の高い草に覆われた木の洞で、私が入ってもまだ余裕があった。

 

 

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