8

 

 

 *

 

 

 私はロディに抱えられて、メイドたちの住む別館に連れて行ってもらった。

 木造の洋館で、玄関の広間を抜けた先は、板張りの廊下と明かりの取り入れ窓。

 その向かいにある壁には、ドアが等間隔で並んでいる。

 なんだか、取り壊されて姿を消した昔の校舎を思い出す造りだった。


 ロディが、その一角から外れて、階段下にあるドアの前で立ち止まる。

 明らかに他と雰囲気が違う。物置きとしか思えないんだけど。


「ここが、アリーちゃのお部屋?」


 私が訊くと、ロディは顔の前で人差し指を立てた。


「おそらく、アリーシャは寝ておりますので」


 ロディの囁きに私はこくこくと頷く。起こしちゃ悪いもんね。

 ロディがノックをせず、静かにドアを開く。


 すると、きれいな裸と遭遇した。


 アリーシャは清拭中だった。パンツ一枚で、包帯の巻かれた手以外は丸出し。

 驚きすぎて、兄妹は声も出せずに固まっている。


 でも被害は最小限で食い止められたはずだ。

 なぜなら、私は異変を感じてすぐに、ロディの目を隠していたのだから。


 それにしても、色も形もきれいで大きさも適度なバランスの良いおっぱいだ。

 腰のくびれも、おしりも、正に私の憧れとする理想像。

 歳を重ねるにつれ、こけし一直線だった前世の私とは大違い。

 今後の参考に、ずっと見ていたいけれど、ここは心を鬼にしなければ。


「ロディ、早くちめて!」


「は、はい!」


 ロディが掴んだままだったドアノブを静かに引く。音もなくドアが閉まる。


 私はロディの顔のスベスベ肌を堪能していたけど、手に伝わる熱が急激に上がって湿っぽくなったので、ビックリして離した。ロディ、顔が真っ赤。


「あとで、アリーちゃに、あやまらなきゃにぇ」


「い、いえ。責任を取ります」


「ちぇきにん⁉ ロディ、にゃに言っちぇんの⁉」


「じ、実はですね――」


 二人に血の繋がりはないとのことだった。

 ロディはアリーシャに以前から恋心を抱いていたらしい。


 幼児に何を言ってるんだこの美青年は。

 アンコがハァハァしちゃうじゃないの。


 美男美女カップルって、素敵よね。うっとりして溜め息が出ちゃう。


 夜って、どんなことするんだろう。ああ、駄目駄目。アンコが出過ぎ。


 今の私はノイン王女。妄想こけし腐女子なんかじゃないのよ。

 唯一の贅沢が漫喫フリータイムなアラフォー女じゃないんだからね。


 そんなことより、ドアを開けたときの衝撃を思い出すのよ。

 アリーシャの裸体じゃない方。そう、部屋の様子よ。


 あまりにも貧しげだった。窓がないし、薄暗くて狭い。

 それに、シングルベッドしかなかった。

 それはそうよね。あんなに狭くちゃ、他の物を置く余裕なんてないわ。


 私の部屋も、王女にしては決して広いとは言えないし、調度品も簡素なのよね。

 それはまだ幼児だからだろうって勝手に納得してたけど……。


 でもこれは……。


 やっぱり、何かおかしいわよね……。

 

 ロディに訊いてみると、悲しい顔をされた。

 口を噤んでしまったけど、それで理解した。

 要するに、私が原因ってことね。


 父が会いに来ない理由も、母同様、気味悪がられてるからだったわけだ。

 軟禁されてるのも、城内を彷徨うろつかせたくなかったってことね。

 けがらわしいとか、おぞましいって思われてるんだわ、きっと。


 兄と違って追放されないのは、私が女だからってだけ。

 それはそう。だって、嫁がせれば済む話なんだもの。いずれは厄介払いできるんだから、わざわざ追い出す必要もないわよね。外交の道具にもなるわけだし。


 でも、それでロディたちの待遇まで悪いっておかしくない?

 むしろ、化け物扱いしてる王女の世話を引き受けてくれてるんだから、めいっぱい良くしてあげなきゃ駄目だと思うんだけど。辞められたらどうするのよ。


 なんて、腹を立ててもさ……。


 二人がいなくなって困るのは私だけなのよね。

 王からすれば、私が生きていさえすれば、なんでも良いんだから。

 

 

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