5
*
庭園では、ロナの花が沢山咲いていた。薄く青みがかった薔薇のような花だ。
幻想的で美しい光景に息を呑む。
香りも薔薇に似ている。私は薔薇の香りが苦手なはずなのだけど、大丈夫だった。
体が違うからかな?
今度、大嫌いな臭いとかでも試してみよう。百合の花とか、銀杏の木とかね。
図鑑には載ってなかったけど、どこかにはあるでしょ。
臭いけど、何回も嗅ぎ直しちゃうのよね。不思議なことに。
なんて、馬鹿なこと考えてないで、お仕事しましょうかしらね。
「ロディ、おろちて」
「駄目ですよ。危険ですから」
「だいじょうびゅ。わちゃし、まみょのがいるところが、わかりゅから」
へ? というロディの声。目を丸くした顔もギャップがあって、アンコがハァハァしちゃう。
でも今は楽しんでる場合じゃないのよ。悪いけど、じたばたするよ。
そこら中に小さな赤い光がある。それが魔物の目印。
魔物の位置が見える目もギフトの一部。他にもあるけど、それは交渉成功後の話。
何も得てないのに、それを活用する方法を振り返ったって意味はないわ。
うーん、それにしても多いわね……。
どうやら、この庭園は、マンティスベビーの住み家になっちゃってるみたいね。
ロディはまったく下ろしてくれないし。それに、もう、なによこの抱え方。
いくら暴れてるからって、私はドジョウやウナギじゃないのよっ!
「ちょうっ!」
「あっ!」
私はロディの腕から逃れて飛び下り、軽やかに地面に着地した。
前世では陸上部。器械体操もやっていた。
体が変わっても、感覚は覚えてるもんだね。
こっそり柔軟と筋トレはしてたけど、ここまで上手くいくとは思ってなかったわ。
振り返ると、ロディがポカンとしていた。私も今そんな顔をしたい気分だよ。
前世は動けるこけしって異名がついて、卑猥だって問題になったけど、今世ではそんなこともないわ。なんの憂いもなく体を動かせるって素敵。
なんだか、いろんなことを考えて、自分に制限をつけてたんだって気づく。
こけしが動いたって良いじゃない。って誰がこけしよ。
昔から、なるべく誰とも付き合わない孤独な生き方を目指してきたことが災いして、心の中で一人漫才をする癖がついているのよね。ああもう、寂しい特技だわ。
《あら、見たことのない亜人がいるわ。凄く小さい。興味深いわね》
ロナの花の中から、そんな声が聞こえてきた。
まばらに赤い光がある中で、そこだけが黄色い。
これは信号のようなもので、青に変われば好意を示す。黄色は警戒中。
私は、その黄色い光に歩み寄り、意思疎通の力で語りかけた。
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