4


 けど、もしかしたら、それもエルモアの働き掛けがあったのかもしれない。

 母がいたら、魔物図鑑なんて悠長に読ませてもらえなかっただろうから。


 エルモアが私に与えてくれたギフトは、魔物との意思疎通能力だった。

 この惑星自身であるエルモアは、人と魔物が無条件に争うことを嘆いていた。

 だから私に、人が相容れないものとの共生を果たす力をくれたという訳だ。


 相手が魔物でも、話せば分かるというやつだ。


 ただ、どうあがいても無理なものもいる。

 それはそう。人だって悪い奴はいっぱいいるもの。

 そういうことも含めてエルモアは私にメッセージを残していた。


(善なるものと手を取り合い、邪悪なる者を滅してくれたら嬉しいな)って。


 要するに、種族関係なく、悪いのはやっつけちゃってってことだ。


 エルモアは、邪悪な存在が自分の上で好き勝手に生きてるのが気に入らないそうだ。

 自分が動くと天変地異になっちゃうから、私にギフトを与えてお仕事をさせることを思いついたらしい。とはいえ、強制ではないのだけれど。


 普通に生きて、困ってる人がいたら助けてあげてね。くらいなものだ。

 無理せず、好きなように生きてという優しい思いも伝えられている。

 ありがたく、そうさせてもらうつもりよ。


 とはいえ、私は不利な状況にある。

 この世界に当たり前のように存在している魔法を使えないのだ。


 理由は、死産した赤子の体に乗り移った形で存在しているから。

 本来持っていた魔力は、体の所有者の魂が抜けた時点で失われている。

 だから私は魔力を持たず、魔法が使えない。

 あるのはエルモアから授けられた魔物との意思疎通能力と前世の知識のみ。


 どうせなら魔法を使いたかったと思うけども、ないものねだりをしても変わらない。

 とにかく、生存率を上げる為の知識を吸収することに努める。

 私は、前を向いて生きるのだ。


 紅茶を一口すする。ロディは気が利くので、温めのものを用意してくれる。


 アリーシャだと熱々なのよね……。


 お熱いのでお気をつけくださいの一言があるので、文句も言えないけれど。

 そういえば、今日は一度もアリーシャの姿を見ていない。

 もうそろそろ、お昼になるというのに。


「ねぇ、ロディ、アリーちゃは?」


「ちょっと、体調を崩しまして。今は自室で休んでおります」


 詳しく訊いたところ、虫型の魔物に刺されたそうだ。

 私は手にしていた魔物図鑑の頁をめくり、虫型の載っているところで止める。


「アリーちゃをちゃちたのって、どのまみょの?」


「えーっと、ああ、これです」


 ロディが指差したのは、マンティスベビーだった。

 全長三十センチくらいまで大きくなる、カマキリのような形状の魔物。

 小さい間は花の蜜を吸ったり、より小さな魔物を捕食して成長する。

 近づくものを毒のある鎌で威嚇して縄張りを守る習性がある。


「どこで、おちょわれたの?」


「庭園です。花の世話をしていたときに」


 私は立ち上がった。アリーシャの一大事だ。

 いつも、お世話してくれてるんだから、恩返しをしないとね。


「ロディ、わちゃしを庭園に、ちゅれて行って」


「え、いえ、それは難しいかと。魔物も入り込んでいますし」


「いいから、わちゃしにまかちぇて」


 私はドアの前まで行く。ドアノブに手が届かないので、ロディ待ちだ。

 ロディは仕方ないと言いたげに私を抱き上げ、部屋から出してくれた。


「今日だけですよ」


「うん。ねぇ、ロディ、ちゅうのー魔法って、ちゅかえたよね?」


「収納魔法ですか? ええ、はい。使えます」


「小瓶があったらちょーだい」


「構いませんが、何にお使いに?」


「まだ、ひみちゅ。誰にもないちょにちてね」


 そんな会話をしながら、私たちは庭園に向かった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る