始まりの季節 ~入学式1~
久しぶりに自転車を漕いでいて気持ちいと感じた。
ついこの間まで冷たい風が吹いていて自転車に乗るたびに苦痛に感じていたのに今日は異様に暖かい風が吹いていて、冷たい空気を程よい暖かさに変えていた。
おかげで自転車で空気の間を通り抜けるたびに気持ちいいと感じてしまい、ついにスピードを上げてしまいたくなる。おまけに今日は天気も良くてほんとに自転車日和だった。
「きもちいい~~!」
隣を走るなずなも同じ気分のようだ。
さっきから無駄にスピードを上げてまっすぐ背中に降ろされたピンクが方茶髪を風邪で靡かせていた。
「大輝も!早くおいでよ」
スピードを上げて歩道の先にいたなずなが自転車を止めて、元気よく手を振っていた。
「はいよ~」
なずなの行動につい頬が緩んでしまう。加えて、春の快晴となずなの笑顔がベストマッチ過ぎて春を告げる青春ソングのMVのワンシーンのようだった。
そんなことを思いながら止まっていたなずなに追いついた。
「どうしたの?そんなにニヤけて」
俺がなずなを追い越すと俺の左隣から自転車で着いてきた。その時のなずなの表情がすごい困惑していた。
やべ、顔に出ていたか……微笑んでいたのは自負しているが口角まで上がっているとはな。
俺はニヤけ面を隠すつもりでゆっくりと顔をなずなのいない方向に向けた。
「別に何でもないよ」
「そうなの?」
「そうなの!」
なずながしつこく聞いてきたので俺は自転車の速度を上げた。
「ちょっと~!?」
なずなも慌てて自転車を漕ぎだした。それを音で確認すると少しスピードを落とし、追いつけるようにした。
俺の顔もいつも通り無愛想になったところだし追いつかれてもかまわない。
それにしても、ゆっくり漕いでも気持ちいとはなんていい日なんだ。
なずなが追いついたところで俺たちは2人横に並んで自転車を漕いでいた。
本来ならば道を塞いでしまう迷惑行為なのだが、俺たちが自転車を漕ぐ県道の歩道はとても広く、2人が横に並んだところで邪魔になるはずがなかった。
そんな時俺はふと思いつき、なずなの服装を確認した。
今日のなずなはいわずもがな制服だ。
上半身には真っ黒なブレザーを羽織り、その中には白地のブラウスが見え、首元からは緑、黒、白のストライプ柄のネクタイが下げられていた。
下半身にはグレーベースのチェック柄のスカートが履かれていた。
そのスカートはけしからんことに膝上までしか丈がなく、そこから下はなずなの肌が露出していた。
靴はJKらしくローファーで決めている。
「……すごい見てくるじゃん」
制服姿のなずなを見ていると恥ずかしそうに頬を赤らめながらジト目をしている彼女と目が合った。
「いや、なずなの制服姿初めて見たからついな」
可愛すぎる表情につい俺も本音をつぶやいてしまう。アイドルの衣装に制服っぽいものもあるがやっぱり本物の制服を着たなずなはレアキャラそのもの。それを初めて見るのだ、上から下まで舐めまわすように見てしまうのは仕方ない。
俺の言葉を聞いたなずなは「はあ」とため息をして一瞬だけスピードを上げて俺の前に出た。
「そういうことなら早く言ってよ」
俺もスピードを上げようと思っているとなずなは俺の前で自転車を止め、全身を俺に向けていた。
「大輝が見たいならいくらでも見せてあげるのに……」
赤く染まった頬に恥ずかしそうに目を泳がせるなずな。そんなに恥ずかしいならばやらなくてもいいのにと思ってしまう。
しかし、せっかく見せてくれたので言葉に甘えさせてもらう。
これならば自転車を漕いでいて見れなかった細部まで見ることができる。
こうしてみるとやっぱり神ビジュアルだな。
うちの高校の制服は結構ありきたりなデザインでかわいいとかお洒落といった誉め言葉などほとんど出てこないのだが、着ている人がこうも可愛らしいと制服もアイドルの衣装の1つに見えてしまう。
「……はい!もうおしまい!!」
そういうとなずなは恥ずかしそうに体を小さくし、正面に向き直り、自転車を漕ぎだしていた。
どうやら恥ずかしさの限界が来てしまったようだ。
俺は心の中で「ご苦労様。ありがとな」とつぶやき、なずなの隣に自転車を進めた。
なずなに追いつくとジト目で俺のことを見てきた。
「後でスイーツ奢ってね」
「はいよ」
さっきのプチ衣装披露会の代金だろう。これに俺が嫌な顔をして断るのは礼儀がなっていないので何も言わずに二つ返事をした。
「フフ。どんなスイーツにしようかな~最近またかわいいのがSNSで流れてくるから迷っちゃうな~」
「あまり高くないやつで頼むな」
「フフ、いやだ」
いたずらっ子のような表情をしているなずな。くそ、ここでの立場はなずなの方が上か。
「お前みたいにたくさん金持ってるわけじゃないんだぞ?」
俺にはこうやって返すしかない。
「何言ってんの。大輝だって普通の高校生よりもお金いっぱい持ってるでしょ?下手したら大学生よりも貰ってるくせに」
なずなのニヤけ面が止まらない。それどころか、「このこの~」と俺のわき腹を肘で突いてきた。それがくすぐったくてつい吹いてしまった。
「や、やめろ~」
それでもなずなは肘をわき腹に突っついてくる。ならば、
「逃げる!」
自転車の速度を上げて逃げるに越したことない!
「あ!待ちやがれこのやろ~」
俺の後ろから楽しそうに笑うなずなが追いかけてくる。
さっきならば追いつけるようにスピードを緩めるのだが、今回は緩めることなく自転車を漕いだ。
なぜなら、俺も今の状況が楽しいからだ。
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