飲馬長城窟行
万里の長城の岩窟で馬に水を飲ませる
水は冷たく馬の骨髄を損なうほどだ。
苦役の卒は長城工事を監督する役人のところに出かけていう
「どうか太原出身の兵卒をひきとどめずに帰してください」。
「お上の仕事には日程があるのだ
みんな声をそろえて杵をあげて土をつけ」。
「男はむしろ敵と戦って討ち死すべきもの
どうしていやいやながら長城など築いておれようか」。
長城はよくもながながとつらなっていることよ
つらなりつづいて三千里。
長城には駆り出されてきた強健な若者がたくさんいて
留守宅には孤閨を守る婦人が多い。
苦役の兵卒は便りを書いて妻に送った
「わが家にとどまらずに、すぐさま再婚するがよい。
再婚したら嫁入り先の舅と姑によく仕えよ
ときどきもとの夫のわしのことを思い出してくれ」。
妻からの返書が辺境の地にとどいた
「あなたはなんとつまらぬことをおっしゃるのか」。
「いま、わたしはこの辺城でいつ果てるか分からぬ身だ
どうして他家の女であるおまえをわが家に引きとどめておけようか。
再婚して男の子が生まれたらどうか取りあげないでおくれ
女の子が生まれたら肉を食べさせて養い育てるがよい。
おまえはこの長城のもとに
死人の骸骨が重なりあっているのを知らないだろう」。
「年ごろになってあなたのもとに嫁いでお仕えしてから
今日まであきたりない思いで暮らしてまいりました。
辺境の地でご苦労なさっているあなたのことは重々承知しております
わたしばかりがどうしていつまでも生きながらえておられましょうか」。
林田愼之助『三国志と乱世の詩人』(2009年、講談社)より
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