第109話 童貞力は砕けない(7)
膨大な力は、邪神様が封じられているミナの下腹から湧き出ていた。
ミナは強引に封印された邪神様から力を吸い上げている。
いや違う。
この感じには覚えがあった。
3ヶ月前の蒸し暑い夜。ミナが突如イッサクをめった刺しにした、あの夜と雰囲気がまったく同じだった。
イッサクは、雷に打たれたように悟った。
邪神様がミナに力を与えていたのだ。
いま現在も、そして3ヶ月前のあの蒸し暑い夜もだ。
3ヶ月前、邪神様はミナの体を使ってイッサクをめった刺しにした。
そして、いまも、ミナに力を貸し与え、イッサクを殺そうとしている。
なぜか?いままでさんざん利用してきた王族に復讐するために決まっている!
「おい!バカ!やめろ!!」
イッサクが飛び出すと、ミナは剣をかるく払った。
たったそれだけなのに、イッサクの前のステージが裂け、その下の地面までが塹壕のようにえぐれてしまった。
イッサクは戦慄せざるをえなかった。
ミナの剣がまったく見えなかった。
もし受け止めようとしたら、体が砕け散ってしまっていた。
この土壇場で、イッサクとミナの力関係が完全に逆転してしまった。
「おまえ、自分がなにをやったのか、わかっているのか!?」
イッサクは苦虫を噛んだ顔で問い、ミナは明るく微笑んで答えた。
「これは……、ヤバいわね。10分持たないかも」
ミナは場違いに明るく、力のせいで頭のネジが飛んだのかと、イッサクを更に焦らせる。
「そこを動くな。いま邪神様の封印を解いて……」
イッサクが近寄ろうとするが、ミナはまた剣を払い、突風を起こしてイッサクを拒む。
「おい!!」
「だめよ。いまこれを奪われたら、私はあなたに勝てなくなる。
言ったでしょ?私は、あなたが殺したくても殺せない、唯一の女だってことを証明するのよ」
「馬鹿野郎!!そのままだと、おまえが吹っ飛ぶんだぞ!?」
「そうね。だから助けてよ」
「ああ!?」
「あなたを愛していることを証明するために、私は絶対にこの力を手放さない。
このままじゃ良くて廃人コースなのもわかっている。
でも、私はもうあなたから逃げない。
もっとあなたと一緒にいたい。
だから助けて。
お願いだから私を見て」
そうしてミナは、恋する心をそのままに可憐に笑った。
「無茶苦茶言ってんじゃねーぞ……」
イッサクはガリガリと頭をかきむしる。
どうしてこうなった?
なにをどうすればよかった?
ミナをいたぶって遊んでないで、さっさとぶちのめしていればよかったのか?
悪魔のガチャなんてしなければよかったのか?
クズオヤジから邪神像を奪っておけばよかったのか?
もっと話をすればよかったのか?
不倫を見てみぬふりをしなければよかったのか?
あの蒸し暑い夜に逃げ出さなければよかったのか?
結婚しなければよかったのか?
惚れなければよかったのか?
出会わなければよかったのか?
とっとと童貞を捨てていればよかったのか?
だが、どの選択もありえなかった。
イッサクは、ミナにひと目見惚れした。
殺したくてどうしようもなくなってしまった。
そんなことをしたくなくて、距離をとった。
イッサクの童貞も決定した。
ミナと出会った瞬間、運命は決してしまった。
「くそっ!なんでこんなバカに惚れたんだ、俺は!」
イッサクが頭をかきむしって吐き捨てる。
その苦悶に満ち満ちた仕草に、ミナはクスっと笑った。
このままでは、ミナが吹っ飛んでしまう。
どうすれば助けられる?
なによりもまずは、ミナの下腹に封印された邪神様を開放することだ。
ミナはそれを断固拒否し、阻止してくるだろう。
ではミナを制圧すれば、助けたことになるのか?
それはミナがイッサクの唯一の女だという証明の失敗だ。
ミナがおとなしくそれを受け入れるわけがない。
下手をすると、神殺しを強行し、精神干渉で世界中の人間を書き換えてしまうやもしれない。
それはだめだ。
ミナが神になる世界など、絶対にミナを助けることにならない。
イッサクがそれを許せない。
イッサクは必死に頭を回転させている。
そうして外への注意がおろそかになったとき、ミナが剣を突く構えを見せた。
それを見た瞬間、考えるよりも早く、イッサクの体は戦慄し、ひとりでに回避行動をとった。
直後、ミナの剣先から金色の閃光が放たれ、イッサクの左腕を吹き飛ばしてしまった。
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