第71話 黒とピンクでゴスとロリを煮込んだような女(4)
トキハのスマホには、夜明け前の大広場で、ラヴクラフトと女の側近が赤いベットの上で、全裸で抱き合っている画像が大写しになった。
イッサクとリリウィが闖入した中出し3Pの現場から、ミナが飛び出した直後の写真だ。
コメンテーターたちは、ミナと恋人関係にあるはずのラブクラフトの浮気、破廉恥、倫理観の欠如などを激しく糾弾している。
スタジオにはラヴクラフトの女性の側近もいて、なんとか擁護しようとしているのだが、モザイク処理された画像を前にしては、顔を赤らめるだけでろくに反論できない。
ラヴクラフトたち共和党と対決している真王党の幹事長は、禿げで脂ぎっている顔を紅潮させ、ここぞとばかりにラヴクラフトを批判してる。
画面下の緊急世論調査とあるグラフでは、共和党の支持が2割を切っていた。
「こちらも盛りあがっていますよ」
トキハがスマホをSNSの画面に切り替えた。
ラヴクラフトのアカウントには10万を超えるコメントが付けられていて、ほぼ全てが批判、非難、叱責、中傷、罵倒といったネガティブなものばかりだ。
それらの内容を一言にまとめると「ミナを裏切るなんて許せない」。
あわせて、大広場での大乱交も、ラヴクラフトの仕業なのではと疑われていた。これは完全にとばっちりなのだが、本人たちもそれに乗っかって中出し3Pをキメてたので、言い訳ができない。
イッサクが監禁されていたこの一日で、ラヴクラフトへの台風のような逆風が吹き荒れていた。
「一体誰がこんな画像を」
「私です」
「え?」
イッサクとデスノスは、トキハのドヤ顔を見上げた。
「お兄様たちが大広場に現れたので、何かあるかもと張らせていたんです」
トキハはスマホの画面に指を走らせて画像の一覧を出した。
そこには、モザイク処理がされるまえのラヴクラフトの全裸画像のほかに、黒塗りの高級車から出てくるイッサクとリリウィや、吹き飛んだ車から飛び出していくミナの画像もあった。
そうしてトキハはスカートの下からカードのようなものを取り出して、両手を添えてイッサクに差し出した。それは「真王党顧問 トキハ」とだけ記された名刺だった。
「政治屋?お前が?」
イッサクは名刺とトキハを何度も見比べた。
「王政を望む者たちの取りまとめ役のようなものです。表に出るのは夫に任せていますが」
「夫!?結婚したのか!?誰と!?」
驚くイッサクに、トキハはスマホの画面をニュース番組に戻して指差した。
「この真王党幹事長が私の夫です」
トキハが指差して言ったのは、禿げていて、脂ぎっていて、三つ揃えのボタンが今にも弾けそうな腹をしていて、娘にすら避けられていそうな、いかにもな中年の男だった。
イッサクはゆっくりトキハをみて声を絞り出した。
「……マジ?」
「優しんですよ。仕事に情熱を惜しみませんし、浮気はしないし、こんな体の私をかわいいと何度も抱いてくれるし、なんといってもお兄様を敬愛しているところがポイント高いです」
「そ、そうか……」
身内の惚気が思った以上にきつくて、イッサクは胸焼けしたような顔になった。
「我々はこのスキャンダルを契機にして、ラヴクラフトへのネガティブキャンペーンを仕掛けています。
ラヴクラフトは十分に対応できておらず、選挙の行方はわからなくなりました。
つまり、お兄様が玉座に戻る絶好のチャンスです」
「だからって、俺が人間をやめる必要は無いだろ?」
トキハはきっぱりと首を横に振った。
「いいえ。悪魔と取引した者に通常の医療は意味はなく、もはやお兄様が生き永らえるには、人間をやめていただくしか道はないのです。
この国は、人外の王、魔王イッサクを戴く新しい王政が必要です。
私はその実現のために、こうしてまかり出てきたのです」
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