第27話 ヘタレ夫&クズ亭主 vs 元人妻(1)

 イッサクとデスノスが地上に戻ると、夜半も近いと言うのに、祭りの人出は数はさらに増えていた。



「今年も賑わっているな」



「そう……か?」



 楽しげなデスノスに対して、イッサクは違和感を感じていた。

 確かに路地ではあちこちで歓声や笑い声が上がり、とても賑やかだ。

 一方で、死霊やゾンビの仮装をした集団のなかに、葬列じゃないかと思うほど、陰気で不気味な者もいた。

 それらのせいで、祭りの盛り上がりが、まだらになっているような違和感があったのだ。

 


 万霊祭は時と共に大きくその形を変えてきた。

 大昔は祈りを捧げる静かな祭りだったが、今では仮装と酔っ払いとナンパのイベントだ。

 盛り上がりがまだらに感じるのは、今年の万霊祭が、少し先祖返りしているせいかもしれない。イッサクはそう納得することにした。



 ふとみると、路地から見えるせまい夜空が、すこし明るくなっていた。

 いや、もうもうとした黒い煙も上がってる。

 火事だ。

 場所は、ちょうど王城のあたり。

 周りの人々も空を見上げ、騒ぎ始めている。

 人々はネットで情報を集め、それを口々に叫んでいた。

 聞こえてきたキーワードは、火事、東の塔、そして王妃ミナ。

 イッサクの額につうっと汗が伝った。



「あんな人気のない場所で火が出るとはな。ん?どうした?」



 デスノスが振り向くと、イッサクはこわばった顔で言った。



「もう遅いし宿に行かねーか?嫌な予感がする」



「予感?」



「ああ。怖いのが出そうだ」



 イッサクは、早足で人混みをかき分けていった。

 たしかに、地下探検や大蛇との格闘をなどで疲れていた。

 デスノスは先を行くイッサクに追いつきつつ、聞いた。



「ところで、お前が探してる邪神像とやらの当てはあるのか?」



「それが無いんだよ。

 国内のあちこちを調べたんだけど、手がかりがなくてな。

 可能性が残っているのは、王城の中ぐらいだ」



「王城など、真っ先にさがしたんじゃないのか?」



「ん?ああ、そうなんだけど、うかつに手を出せない場所は後回しにしたんだ」



「さっきの宝物庫のようなところか?」



「王城にはああいう魔窟がいくつもあって、とにかく手間がかかるんだよ。それなのに、あのバカップルのせいで探せなくなった」



 自分の妻とその不倫相手をバカップルと呼ぶ旦那もどうなんだ、と苦笑いするデスノス。それに構わずイッサクはぼやく。



「どうにか王城に忍びこまないと。あーめんどくせー」



「自分の居城に忍び込むのか?戻るのではなくて?」



「あそこはもうミナとラヴクラフトの愛の巣だからな」



 そう言ってイッサクは、クククと笑う。

 デスノスはまた不安になる。

 妻と不倫相手をバカップルと呼んだり、居城を奪われたのを笑ったり、普通だったら多少なりとも怒るはずだ。

 もしイッサクの精神が正常だと言うなら、何をどう考えれば、あんなふうに笑えるのか。それがデスノスにはどうしてもわからない。





 二人は大広場へと戻ってきた。

 広場からは王城の火事の様子がよく見え、大勢の人が息を呑んでみまもっていた。

 バキバキと東の塔が破壊される音と共に、炎が竜のように夜空を突いくと、広場全体からどよめきが起きた。

 イッサクの背筋に、ゾクとしたものが走った。




 少して、炎は急激に勢いを失った。

 消火作業が始まったのだろう。

 あっというまに炎も煙も見えなくなり、それまで不安げに空を見ていた人たちは「ミナ様が現場に駆けつけて指揮をとった」「ミナ様が魔法で火を消した」などと語り合い、安心した様子にもどっていく。

 イッサクは、王城のある方の空を見て呟いた。



「ミナがやったのかもな」



「はあ?なぜミナがそんなことを?」



「だってあいつ、むちゃくちゃ気が短いだろ?」



 イッサクはヘラと笑うと、ポケットに手を突っ込んで広場の中へを歩いていった。




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 いつもお読みくださり、ありがとうございます。

 応援コメントで、ヒロインのミナに関する、考察、ご要望などを頂いておりますが、大変嬉しいです。

 ネタバレなどを防ぐため、個別の返信は控えておりますが、皆様の中でミナが息づきはじめているんだなと思うと、書いている身としても、俄然モチベーションがあがります。

 イッサクとミナがこれからどうなるのか。

 ぜひ、今後ともお付き合いくださいますよう、よろしくおねがいします。

 

 

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