第10話 1階まで戻ってきたなら
2階にはまだ殺人犯がうろついているかも知れない。俺はそのリスクを考えて1階に戻る事にした。勿論、今は逆に1階に殺人犯がいるのかも知れない。そこはもう賭けだ。1階か2階か、そのどちらにいる可能性も否定出来ないのだから。
俺は慎重に部屋のドアを開けると、念入りに周囲の様子を確認する。今のところ人の気配は感じられない。動くならきっと今がベストなタイミングなのだろう。
そう確信した俺はこの直感を信じて、1階へと螺旋階段を降りていった。必然的にくるりと周囲を見渡し、危険な気配を感じていない事を確認する。一度恐怖に囚われると安全なものでも危険に感じたりするものの、そう言うものも察知する事はなかった。
警戒していたのが無駄だったと思うくらい、何事もなく1階に辿り着く。
「ふぅ……」
この階でするべき事は唯ひとつ。それは玄関に向かう事だ。ただし、犯人が目撃者を生かすつもりがないなら、この行為も徒労に終わる。しかし、犯人の考えなんて分かるはずがない。
分からないなら試してみるしかない。ドアが開けば帰れるし、帰れなかったらその時に考える。これでいい。
俺は視界に入っている玄関に向かって歩き出した。このまま何の罠にも引っかからず、無事に玄関に辿り着ける事を願いながら。
心臓がバクバクと激しく動く。数十歩の距離がとても長い。気を抜くと、どこからか殺人鬼が姿を表しそうだ。もし本当にそうなったら俺は逃げるしかない。けど、そんな想像はドアが開かなかった時に考えればいい。今は考えるべきじゃない。悪い想像が悪い結果を呼び込む事だってあるかも知れないからだ。
そして、何事もなく玄関に辿り着いた俺は思い切ってドアを押す。すると、それは呆気なく開いてしまった。外の景色は夕方の赤い世界。そして、見慣れた懐かしい世界。
俺はミッションクリアに歓喜の声を上げそうになったものの、これが罠の可能性も考えて慎重に周囲を警戒しながら一歩を踏み出した。
「あ、出れた……」
あまりにも呆気なく館を出る事が出来て俺は拍子抜けする。しかし、この館の敷地を出るまでは安心出来ない。俺は後ろを振り向かずにまっすぐに門に向かう。何となく、立ち止まったらいけない雰囲気も感じていた。
半端ないプレッシャーに押し潰されそうになりながら、俺は無事に館の敷地からの脱出も成功させる。予想されたトラブルは一切発生しなかった。俺は賭けに勝ったのだ。
「やった……」
一般道にまで戻れてやっと俺は心から安心する。そして、今日の事は忘れようと誓って帰路についた。本当は通報した方が良かったのだろうけど、その勇気は出なかった。色々聞かれたら不法侵入をした事とかバレるし。
その後、あの館の事は何ひとつニュースにならなかった。ほとぼりが冷めた頃に一度館に向かった事もあったけど、どうしても辿り着けなくてあきらめてしまう。
きっとあれは悪い夢か何かだったのだろうと、俺は館での記憶を封印。この事を誰かに話す事はきっと一生ない事だろう。
そのまま無事に帰宅エンド
あとがき
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330650007697190
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