第6話 聖剣の呪いの暴走

 俺は魔法剣を握りしめると、まずは巨人の方に狙いを定める。敵意を感じたのか、俺の剣先が届く前にヤツはバックステップで器用に攻撃をかわす。


「お前、俺を殺す気か。あいつの助太刀か?」

「俺が魔物を助けるだと? 冗談じゃねぇ。まずお前から倒すってだけだぜ!」

「やってみろ!」


 巨人は持っていた巨大な棍棒を振り回す。大木をそのままの大きさで持ち手の部分だけ加工したようなそれは、当たれば一撃で人をバラバラに出来そうな迫力があった。見た目から力任せの大雑把な攻撃をしてきそうな雰囲気の巨人は、しかし意外と繊細なパワーコントロールも出来るようだ。

 俺が放った攻撃魔法をその棍棒で器用にいなしていく。そのため、魔法で弱らせてからの剣撃と言う俺のプランは上手く行かないでいた。


「やるじゃねーか。巨人の癖に」

「巨人の癖には余計だあああ!」


 俺の一言に巨人はブチ切れる。そこで出来た隙を狙って俺は魔法剣に火炎魔法を付与させて一閃。会心の一撃だった。巨人は体が真っ二つになって沈黙。その巨体が倒れた時に発生した大きな音と振動が周囲に響き渡る。

 驚異がなくなった事で、さっきまでボコられていたスライムが飛びついてきた。


「ああああありがとうございまー」


 隙を突いて狙ってきたと感じた俺は、スライムがジャンプした瞬間に魔法剣を斬り上げる。サクリと気持ち良い感覚を残して、ゼリー状の魔物は絶命。その体を光の粒子に変えていった。普通の魔物は倒しても体は残るため、この現象に俺は戸惑う。


「まさか、イベント系モンスター?」


 俺は、スライムを倒してしまった事を若干後悔する。しかし後の祭りだ。倒したモンスターは復活させられない。時間は戻らない。そして、スライムを倒したのが原因なのか、俺の周囲に異変が起こり始めていた。

 それは腰に挿していた呪われた聖剣から漏れ出てくる重い瘴気。段々気分が悪くなり、俺は力なくバタリと地面に倒れ込む。


「な、なんだ……これ」


 その瘴気はやがて俺の体全体を包み込んだ。どす黒い漆黒の繭は俺の体をじわじわと侵食していく。薄れゆく意識の中で実感したのは、剣にかかった呪いが暴走していると言う事実。それに俺の体が耐えきれないと言う現実。それと、この状況がどう言う結果を導き出してしまうか分からないと言う不安だった。

 俺の心の中に呪いが染み渡ってくるのと同時に、邪悪な意識が爆発的な勢いで広がっていく。そうか、聖剣に呪いをかけたのは――。


「ぐああああああ……っ!」


 漆黒の闇が全て俺の体に吸収された時、鞘に収めていた剣はすっかり魔剣になってしまっていた。俺は無意識の内に立ち上がり、魔剣を空に掲げる。この時、俺の意識もすっかり闇に染まりきってしまっていた。


「ふは、ふははははっ!」


 何故笑ってしまったのか分からない。溢れ出てくる邪悪な力に快感を覚えていたのかも知れない。きっと、もう以前の俺には戻れないのだろう。一体どこで間違えた?

 そこからの記憶は一切なかった。終わる事のない悪夢の中で、ただ狂気に笑っていただけのような気もする。


 ずっと耳に届いていた悲鳴や破壊音が聞こえなくなった時、俺の目の前には血溜まりの中に沈む異形の大男がいた。そいつが息絶えた時、どこからかハッキリとした声が聞こえてくる。


「おめでとう。君が次の魔王だ」

「な、何を……」


 俺は声の主を探すものの、どこにも人影は見当たらなかった。この時に見回して気付く、この部屋が魔王の部屋であり、俺が魔王の玉座に座っていた事を。部屋には俺と、倒れている男しかいない。と言う事は――。


「お前が魔王か?」

「元魔王だよ。君なら後を任せられる。何しろ我より強いのだからな。では、魔族達の未来は任せたぞ」

「ちょっ……」


 俺が倒したらしい魔王の魂は、言いたい事を言い終わるとあっさり息絶える。俺にとんでもない責任だけを背負わせて。

 この状況から考えると、俺は呪いを受けた暴走状態で魔王を倒したのだろう。そして、その際に認められて次の魔王に指名されたと言う事のようだ。


「何にせよ、魔王は倒せたんだ。これでいいじゃないか。ふはははは!」


 俺が正気を取り戻せたのはこの一瞬だけ。剣に宿る瘴気が再び俺の心を狂わせていく。仕方ないさ。俺はもう魔王になってしまったんだ。だから魔族のために働かなくちゃいけない。

 人間界を蹂躙して、この世界を魔界にしなきゃいけないんだ。



 気がついたら魔王になっていたエンド


 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649434801415

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