第6話 対決! 魔王城

 俺は、ボコられているスライムをどうしても悪い魔物とは思えなかった。そこで、助太刀しようと巨人の魔物の前に立ちはだかる。


「何だ人間、それは俺の獲物だぞ」

「喋る魔物か、それなりのレベルはあるようだな」

「ふん、お前なんぞ瞬殺だーっ!」


 巨人が手にした巨大棍棒を振りかぶった隙を突いて、俺は魔法剣で一閃。勝負は一撃で片が付いた。剣を鞘に収めていると、スライムが俺に近付いてくる。


「ああああ、ありがとうございます!」

「おお、お前も喋れるのか。で、俺を倒すのか?」

「命の恩人にそんな非礼はいたしません! 助けてくれたお礼がしたいのです!」


 どうやらこのスライム、しっかり礼儀をわきまえているようだ。俺はこの魔物にしておくには勿体ない倫理観を持つスライムに興味を抱く。そこで、人間に接するように軽く自己紹介をした。


「俺はハルトって言うんだけど、君にも名前はあるのかい?」

「ぼ、僕はポム。クリスタルスライムなんだ」

「へぇ、レアモンスターだな。名前持ちはレベルが高いはずだろ? 何で一方的にボコられてたんだ?」

「僕は戦闘力は高くないんだ……。それであいつを怒らせてしまってね」


 ポムが言うには、あの巨人は最初から虫の居所が悪かったらしい。森の中を我が物顔で歩いていたので、ちょっと注意したらいきなり殴りかかってきたのだそうだ。

 話を聞いた俺は、その理不尽な仕打ちに同情する。


「それは災難だったな」

「それより、お礼をさせてください。僕に出来る事なら何でもします!」

「そう言われてもなあ……」


 俺は頭を掻きながら、ポムの暑苦しい熱意に困惑した。どうやって断ろうかと考えていたところで、頭の中の豆電球がピカッと光る。


「そうだ、じゃあ、この剣の呪いを解いてくれないか?」

「ああっ、これは聖剣じゃないですか。見事に呪われていますね……」

「だろう? 誰もこの呪いを解けないんだよ」


 俺はこれであきらめるだろうと思って無理難題を出したつもりだった。けれど、ポムは嫌な顔をするどころか、俺の差し出した呪いの聖剣をじっくりと観察し始める。そうして、いきなり体を膨張させて剣をまるっと取り込んでしまった。

 突然の出来事だったので剣を握っていた手まで取り込まれてしまい、俺は慌てて指を広げて腕を引っ込める。


「な、何すんだよ!」

「むにゅ、ごめんなさい。今から呪いを解除しますね」

「マジで?」


 俺が驚いていると、やがて聖剣が光を放ちながらスライムの体から出現する。本当に呪いが綺麗さっぱり浄化されていた。

 俺は本来の姿になった聖剣を手にして、その刀身を様々な角度から眺める。どこから見ても素晴らしい、いい仕事をした逸品だった。


「やっぱりこれは人間の作った剣じゃないな……。完成度が高すぎる」

「そうですね……。かつて、勇者のために精霊王が人間に送ったと言われています」

「ポムは詳しいなあ」

「私もその一族の端くれなので」


 つまり、クリスタルスライムはスライムと言う名前なものの、実は精霊らしい。本来はこの森ではなくて、精霊の住む別の場所で暮らしているのだそうだ。


「今日はこの森に生えているキノコを採りに来ていたんです」

「じゃあ、俺達が出会ったのはたまたまだったんだな」

「そう言う事ですね。魔王退治、頑張ってください。ハルトの実力ならきっと大丈夫ですよ!」

「ああ、有難う。またな!」


 呪いの解かれた聖剣を手にした俺は、その足で魔王城へと向かう。襲い来るモンスターを瞬殺して、場内のワナをかいくぐり、先に先にと進む。行く手を阻む四天王的な幹部ですら俺の敵ではなかった。


「まさか、この四天王一番の剛腕のルワドが全く刃が立たぬとは……」


 四天王の最後の1人を倒した俺は、その奥の部屋のバカでかい扉を開ける。ついに魔王様とのご対面だ。禍々しい装飾が施された部屋の一番奥にある、これまたバカデカい椅子に魔族の王はふんぞり返っていた。


「お前が勇者か。異世界の者だな」

「ああ、お前を倒しに来た。幹部はみんなあの世に送ってやったぜ?」

「では、我がお相手しないとな……」


 魔王は流石魔族の王だけあってデカい。3メートル? いや、それ以上はあるかも知れない。見下される威圧感は相当なものだ。俺は聖剣を握り直すと、魔王の隙をうかがった。

 魔王はニヤリと不敵に笑む。そして、直径1メートルほどの魔弾をいきなり連射してきた。直撃すれば一瞬で蒸発してしまそうなそんな魔法の弾を、俺は聖剣で休みなく切り裂いていく。


「やるではないか、名を聞こう」

「俺の名前はハルト。吉川ハルトだ」

「ほう。良き名前だな。我の名前はギルフェルだ。ハルトよ、我の部下にならぬか? 人間界を征服した暁には世界の半分をやろう」

「テンプレだな。お断りだぜ!」


 魔弾攻撃をしのぎきった俺は、魔女から授かった対魔王用の切り札『究極魔法エルデレ』を発動。これは魔王の動きを一定時間封じるものだ。シーリィによれば、事前に対策されていれば効果を発揮出来ないものらしい。

 けれど、上手くタイミングを読んだのが功を奏して、魔王はその動きをピタリと止める。体が動かなくなったところで、ギルフェルの顔に焦りの色が浮かんだ。


「お、お前、こんな魔法まで習得していたのか……」

「油断したなギルフェル! お前はここで終わりだあーっ!」


 俺は聖剣を振りかぶり、魔王の体を両断する。真っ二つになった魔王は再生される事なく、その体をじわじわと消滅させていった。


「ゆ、油断しすぎておったわ。聖剣の呪いが解かれておろうとはな……」

「俺の勝ちだぜギルフェル。ゆっくり眠りな」


 俺は聖剣を一振りして鞘に納める。こうして魔王は消滅し、この世界に平和が戻った。つまり、俺の役目も終わったって事だ。魔王城を出ると、その悪魔の城も自然に風化していく。

 聖剣を悪用されないように森の台座に戻して、俺はシーリィの元に帰った。


「シーリィ、俺、やったよ!」

「おめでとう! やっぱりあんたは私が見込んだ勇者だよ」

「でも俺、これからどうしたら……」

「元の世界に戻りたいんだろう? 用意はしてあるさね」


 本当は彼女と一緒に暮らしたいとか思っていたものの、勝手に話が進んで俺はそれを言い出せなかった。最初に転移した部屋に案内されると、そこには少女姿のルルアが待っていた。

 彼女は、俺と目が合うなりペコリと頭を下げる。


「魔王退治、お疲れ様でした。世界を救ってくださり、本当に有難うございます!」

「えっと……うん」

「それでは今からハルトさんを元の世界に戻しますね。安心してください。時間も戻しますから、何の問題もありません」

「ちょ、そんなすぐに戻らなくても……」


 こう言うのは祝賀会的なものを開いてワイワイ騒いだ後で余韻を楽しみながら、でもこの世界に留まってもいいのかもってイベントがあった後にやるものじゃないのかよ。なんでみんなそんなに急いで帰したがってんだよ。

 俺は元の世界への転移を待ってもらうように一歩踏み出す。そのタイミングで足元の魔法陣がまばゆい光を放った。


「うおっ、またこれ……」


 光が消えると、俺は転移前の地点に戻ってきていた。地元に戻った事で服も元に戻っている。ポケットを探るとスマホも入っていた。時間を確認すると、こちらも転移前のそれに戻っている。1秒も進んでいなかった。その数字を見た俺は、何もかもが終わってしまった事を実感した。

 心の中を冷たい風が吹き抜けていく。そうして、俺はトボトボと自宅へと戻ったのだった。


 色々あって風呂上がり、俺はベッドに寝転がる。そこで今までの事を思い出していると、パジャマのポケットに何かが入っている事に気がついた。

 取り出すと、あの冒険のお供だった魔法剣が小さなアクセサリーになって俺の手のひらに握られている。


「なんで、こんなのが……」


 俺がアクセサリーに注目していると、突然魔法立体映像が浮かび上がった。


「ハルト、無事帰れて良かった。そこがあなたの部屋なのね。じゃあ早速ポータルを開くよ」

「ちょ、どう言う事?」

「あなたはまだ子供でしょう。だからこっちの世界にずっといさせる訳にはいかない。もしあなたが大人になって、またこの世界に来たかったらその時はいらっしゃい。歓迎してあげる」


 つまり、自室に異世界との扉が開いた訳だ。シーリィは大人になったらって言ってるけど、このポータルは俺の魔法でも解錠出来る。実質、いつでもあの世界に行き来出来るんだ。

 俺は明日からの冒険の日々を夢想して、ぐっすりと眠りについたのだった。



 色々あって魔王を倒してハッピーエンド!



 あとがき

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330651670156522

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