第5話 解放軍

 あちこちで爆発音と振動が襲う中、俺は怖くて部屋の隅っこで震えていた。ここまでの事をやっておいてただのイベントだったら逆に感心するわ。

 しばらく息をひそめていると、複数の足音が近付いてきているような気がして更に恐怖心が増してくる。一体実験室の外で何があったって言うんだ。


 部屋のドアはきっちり閉めていたものの、そこは現代地球の技術を再現したもの。ルルデュア星の科学力で押し切られれば簡単に開いてしまう。呆気なく解錠されたドアを開けて現れたのは、同じデザインの服を着た2人組の男達だった。


「良かった。無事だったか」

「こ、殺さないで~」

「安心してくれ。私達は君を助けに来たんだ」

「えっ?」


 俺の前に現れた男達は自分達の事を解放軍だと説明した。どうやら今のこの国は政治的に腐敗が極まっていて、誰かが立ち上がらなければマズい状況になっていたとの事。それでクーデターを起こし、同時に政府が行っていたプロジェクトを次々に力尽くで終了させていたらしい。


「じゃあ、この実験は終わりって事?」

「そうとも。君は政府のおぞましい実験の犠牲になった被害者だ。今すぐに故郷の星に戻そう」


 こうして、俺の孤独で充実したニートモルモット生活は突然の終りを迎える。解放軍の2人に連れられて実験室都市から脱出した俺は、その足で政府の極秘格納庫に移動した。そこにあったのはあの日さらわれたのと同じUFO。ここに連れてこられたと言う事は、あの船で戻されるのだろう。

 俺は今でも強烈に印象に残っているこの宇宙船を見上げて、思わずポツリとつぶやく。


「行きも帰りも同じ船かぁ」

「ああ、今のところ星間移動を出来るのはこの船だけなんだ」

「えっ? そうなの?」


 俺を連れてきた解放軍の人の話によると、このUFOは稼働実験で様々な宙域に飛んでいて、その中でたまたま太陽系を見つけたらしい。太陽系の各惑星を調べていく中で地球に知的生命体がいる事が発覚。科学者が興味を持ち、そこから調査を進めていたのだとか。


「じゃあ、地球がルルデュア人に見つかったのは割と最近なんだ」

「ああ、5年前に発見されたと極秘資料に書いてあったな」

「正式な国交は開かない?」

「まだ地球側の準備が整っていないからな。だが、ゆっくり時間をかければ……」


 UFOに乗り込み、地球に着くまでの間、俺は解放軍である乗組員達とたくさんの話をした。ここで芽生えた絆を無駄にしたくはなかったからだ。今のままだと俺の経験はただの与太話で終わってしまう。けれど、ルルデュア人が正式に姿を表してくれるようになれば、きっと俺は一気に有名人だ。

 それに、上手く行けば地球とルルデュアの架け橋にもなれるかも知れない。そうなれば、多分食いっぱぐれない。


 そんな将来の戦略を得意げに話していると、俺の相手をしていたドラガと言う大男が豪快に笑う。


「はは、君は結構したたかなんだな」

「転んでももタダでは起きたくないだけだよ」

「気に入った! その時が来たらまた会おう!」


 こうして将来の約束を取り付け、俺は無事に舞鷹市に戻された。話の信憑性を高めるために、自宅の上空で降ろしてもらう。家族はビックリしていたものの、俺本人がそこから降りてきたので信じるしかなく、ただこの事は家族だけの秘密となった。

 その後、政府や謎の組織なんかが接触してきたりして色々面倒な事にもなったのだけど、それはまた別の話だ。


 俺はルルデュア人が公式に現れるその日を待っている。約束したんだ。きっとそんな遠い未来の話ではない事だろう。


 解放軍に無事地球に戻してもらったエンド



 あとがき

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330651670128493

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る