第3話 利用したんじゃないの?

「その話を受けなさい」

 ベッドの上で療養中の父シストンが僕と同じ黒髪と紫の瞳で睨む。

 こう言っちゃなんだが…父は顔がいい。魔術も団長と言うだけありダントツで上手かった。


「え~~~~?父さんは僕が犯罪者になろうとも借金さえ返せればいいの?」 

 と言うと迷わずに


「当たり前だ!!グレンよ…どの道王女もこの国から出たいだけなのだ。つまりお前を利用しようとしている!」


「あ……う、うん…」

 そりゃそうだろう。僕なんて陰気臭いし利用されて当然だと思う。


「だから別にいいではないか!こっちも王女を出してやる代わりに借金を肩代わりして国から出て新しい国に着いたらお別れで」

 父さんは…僕が子供の頃に母さんに捨てられてからというもの…女の人を信じれなくなったのだ。だからいくら顔が良くとも再婚はしなかった。


「えー?勿体なくねぇか??一応王女さんも可愛顔とあんなでっけえ胸を持ってるしグレンもそろそろお年頃だろ?本当に結婚しちまえばいいじゃないか?」

 と父さんの長年の親友のマーカスは言う。


「マーカス…グレンは王女に利用されてるだけだ。お前なぁ?会ったのはこの前のショーで一目惚れなどと言うのが信用できるか?恋というのはもっと時間をかけるものだ」

 と言うとマーカスは


「……恋に時間とか関係あるのか?俺は可愛い子やねーちゃんがいたら声をかけるぜ!」

 ドヤったマーカスはただの女好きだ。


「それはお前の事情だ!普通はそんなもんないな!」

 バッサリと切り捨てられたマーカス。


「そうだよ…マーカスさん。僕はどの道王女様を助かれば犯罪者確定になるし…」

 と暗い顔をする。父さんは


「しかし…この国確かにおかしい。なぁ、マーカスお前も感じたろう?王女も危惧している通りカボチャに対する異常な信仰と好意。もはや洗脳と言ってもいい。いくらなんでも王女以外カボチャが嫌いな者を見たことがない。病院食にもカボチャが使われたものが多い」


「そうだな。一応団員にはカボチャを食べないことと触らないようにと言っている。グレンお前も気を付けな」


「う…うん…」

 確かにこの国は変だった。微かに魔力を感じる事もある。なにかやはり洗脳があるのだろうか。


「あまり長いこと国に滞在はできない…」


「だな……。週末に何やら祭りが開催される。どうやらしょっ中カボチャ祭りを開催してるらしいな。祭りの騒動に紛れて国を出るのがチャンスだろうな」

 とマーカスが言う。


「グレン…とりあえず王女に返事をしてこい…国から出してやる代わりに借金を肩代わりする約束を取り付けてこい!私達はその間王女の偽物をこしらえておく!」

 と父さんが言う。


「う……は、はい…」

 人とあんまり喋るのが苦手だけど仕方ない。


 *

 そんなわけでのろのろと王宮まで来たが…門番さんはあっさり通してくれた。


「王女のお気に入り君が来たぞ。お通ししろ!」

 と通されて執事みたいな人の後について王女の部屋まで案内されて戸口で


「では私共は下がります。ごゆっくり…ルーシー様には…優しくしてあげてくださいませ」

 と何か涙ぐんでさささーっと行ってしまう。仕方なく僕はノックをした。王女様の部屋だなんて粗相がない様にしないと。


 コンコンとノックすると2秒くらいで開いた!そこに満面の笑顔で迎え入れてくれた。


「グレン様!!来てくれたのですね!!嬉しいですわ!!」

 とギュッと手を握られた。すべすべだ。きっといいクリームでも塗ったのかな。手袋つけなくて平気だろうか?僕の様な者の雑菌が王女に着くのでは?と心配する。


「あ…あの…お返事をと…」


「ま、まぁ!それでどうですの??」

 王女はハラハラした様子だ。


「…父さん達とも相談しまして……お話をお受けしようかと……」

 と言うなりいきなり正面からガバッと抱きしめられた!!


「うぇ!!?」

 王女の胸が僕の体に押し当てられれているしふわふわの金髪が顔に当たる。と言うかいい匂いがする。お日様みたいに暖かい体温も。


「嬉しいですわ!グレン様!!私を貴方のお嫁さんにしてくれるのですね!!」

 と嬉しそうに言う。………?


「あの……王女様はこの国を出たいだけですよね?うちも借金を返したいだけなのでお互いの利益が一致しただけというかなんというか……」

 と言うと王女はガバっと少し離れて驚きの表情で僕の顔を間近で見る!


「え?…グレン様…た、確かに私はこの国を出たいのですが…私貴方を利用しようだなんて思ってませんわ!!


 本当に貴方のお嫁さんになりたいのですわ!!あっ…いきなり過ぎて信用されてませんの?」

 と言う。…は?

 どう言うこと??首をかしげるばかりだ。


「あの…意味がわかりませんが…何で僕のお嫁さんになどなろうと…こんな…陰気臭いのに……」

 と言うとまた手を取られジッと上目遣いで見られた。


「グレン様はとても素敵ですわ!!なぜ今まで恋人がいないのか不思議ですわ!」

 なぜそれを知っているのかこっちが不思議だ。調べたんだっけ?


「いや…あの僕は人嫌いだし…。恋もした事ないし…。女の人は怖いし…」

 ともそもそ言うと


「まぁ!そんな…グレン様私の事も怖いと考えたますの?」


「えっ……」

 と汗が出る。正直怖い。この前脅されたし。青ざめていると背中をさすられた。


「ごめんなさい、この前のはグレン様が納得してくれないと困るから咄嗟に出た言葉で結果的に脅してしまった様ですわね?私の事を怖がっても仕方のない事ですわ!


 でも私の気持ちは本当です!私貴方のことを一目見て好きになりましたの!」


「よ…よく知らない人を好きなんておかしくないですか?」


「おかしくありませんわよ…。貴方はきっとあまり人に興味がなく信用できないのね」

 と言われる。確かに……そうだとも言える。どう言おうと困っていると王女がソファーに座らせてくれた。でも何故か向かいではなく隣にみっちりと座られる。椅子沢山あるのに。


「グレン様…私…本当に好きで貴方のお嫁さんになりたいのですが」

 と言う。…王女は真剣な顔だ。

 ……。


「あの…僕は…王女様に相応しくないかと存じます。平民ですし」

 と言うと王女は


「そんな事はありませんわ!私も国を出たら身分を捨てますし!グレン様の隣で支えて差し上げたいの!」

 とまた手を握られ見つめられた。キラキラの蒼の瞳が僕を写す。眩しい。


「……僕は王女様を幸せになどしてあげられないと思うんですが…」


「何故でしょうか?私はとても幸せだと思いますわ?グレン様のお嫁さんになれるのなら!」

 何故ってそんなのわかりきっているではないか。こんな陰気で恐ろしい黒髪と瞳……どの国や町でも嫌な目で見られるし。


「自信を持ってください!とてもグレン様は素敵です!」


「…っ!貴方になにがわかるんですか!?この前会ったばかりで!僕の何を!?」

 つい声を荒げてしまった!王女相手に!


「ええ…調べた事以外は知り得ませんからこれから知っていけばいいのかと!私の事もグレン様に全て知ってほしい!」

 と王女は頰を薔薇色に染めた。そして頭を僕の胸に乗せてうっとりしている。

 ………?何の時間だ?

 眠いのかな?


「グレン様……あああ…グレン様の匂いがしますわ…素敵」

 何だか酔った様に言う。


「お酒でも飲んだのでしょうか?」

 と心配すると


「ふふふ、面白いことを!」

 え?今の面白かったのか?何処が?


「私はともかくグレン様が好きで仕方がないのですわ…」

 と言う。さっきから好き好きと言われているけど……。


「……国から出たら良い人を見つけて生きてくださいね。応援してます」

 と言うとなんか睨まれた。


「まぁ!まだ私を信用してませんのね!!こ、この私の色仕掛けが通用しないとは!!」

 色仕掛け??

 キョトンとしていると顔を両手で挟まれた。王女の顔がゆっくり近づいてきた。

 あれ近い。近すぎる。

 と思ったら


「グレン様好き…」

 と呟いたと思うと唇に感触が……!?

 一瞬ビクッとしたが王女が離してくれない。


 というかこれ…僕キスをされてないか?と言うことにやっと気づいた。

 唇は柔らかい。

 王女は唇を離すと赤くなり


「グレン様……私の気持ちをわかってくれました?」

 と聞かれた。


「………何がですか?」

 と言うと王女がザッと離れて信じられないと言う顔になった。


「えええ!?い、今私勇気を出してキスをしたのにわかって貰えませんの!!?嘘でしょ?こ、こんな……天然…はっ…そ、そうですわ…グレン様は恋をしたことがない!つまりわからないのですね!?」

 となんか一人であたふたした。そして手を前に出し


「今のは忘れてください!」

 と言われた。


「はぁ…???」

 とキョトンとする僕に


「……グレン様…私負けませんわ。必ず貴方の心を私に向かせてみせますから!」

 と訳のわからないことを言う王女。


「?…とにかく決行日は週末のカボチャ祭りに紛れて行います。父さん達が王女様の身代わりを製作していますから週末まではお待ちください…。僕は犯罪者になりますが……」

 と落ち込む。バレたらお尋ね者で捕まれば斬首刑!


「グレン様!バレた時のことばかり考えないで!死ぬ時は一緒に死にますわ!」


「いや、罰を受けるのは僕だけですから」


「もう!だからグレン様がいないなら私も生きてても仕方ないのですという意味ですわ!」

 よくわからない。何故?


「よくわからないと言う顔ですわね…。まぁ仕方ないですわ。とにかく決行日楽しみしていますわ!後本当にお嫁さんになりたいのだと言うこと覚えててくださいね!」

 と胸を指差される。


 全く王女の事がわからなかった。

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