第2話 眩しい好意

 旅の途中で寄った国はどこもかしこもカボチャだらけで僕の所属している魔術楽団【シルバーワンド】は国の手続きをしている時に王宮での夜会の話を聞いた。


 僕の父さんはシルバーワンドの楽団長だが旅の途中で左足を怪我して暫くこの国の医者に診てもらうことになった。しかし舞台に立つことが出来ない今かなり楽団達の足手纏いと責任を感じていた。しかも治療費がかかる。

 貧乏楽団が金を得るには民衆広場での投げ銭じゃ食ってけないから王宮に至急夜会での催し物の申し込みをした。


「いいか!お前達!!必ずご満足できる魔法を披露してこい!!!


 そして我が息子グレン・アトキン・バクストンよ!!お前に命運がかかっている!私の代わりにしっかりと働いてくるのだ!!」

 と病床の父シストンが声を荒げた。

 同じ黒髪と紫の瞳を持つ父は母親が借金を作り逃げられ肩代わりされ楽団を設立し更に借金が重なり旅で金を稼ぐ毎日。僕も父について雑用やらをこなして書物で魔法を覚えたりしていた。


 僕は人から見るとかなり陰気なもので…実際そうだ。人見知りが激しく人と目を合わせて喋るのは不得意だし、一人の方が気楽だ。そんなだからあちこちの街で子供の頃は虐められてきた。


 長居する予定はないからと逆らわずにいて成長してますます人が嫌いになって陰気臭くなった。

 そんな僕が父さんの代わりに王宮でショーを!?そんな酷な!!


「無理だよ…できない…」

 と言うと父さんは睨みつけ


「グレン!!この親不孝者!!父さんは動けないのに『無理だよ?できない?』


 やってもいないうちから何を弱気なことを!お前いくつだと思ってるんだ!18じゃないか!そろそろ結婚適齢期だと言うのに良い人の一人も作らないし!あちこちの街で一体何をしてたんだ!!」

 とベッドから父の怒鳴り声が聞こえる。女性に興味がなかった…それは認める。なんかよくわからないがギラギラした目で見られることはあるから怖くて話しかけられないままだ。なので女性とは目を合わせずさっさと通り過ぎるに限るが癖になった。


「ともかく…お前が今回一人で楽団員達をまとめ、王宮でショーをしてくるんだ!!いいな!失敗は許されないしともかく笑顔で華やかなショーをしてこい!!」

 と父さんが僕の頬を無理矢理左右に引っ張る。


「うぐっ…ヒャい…」

 仕方なく無理矢理引っ張られたまま返事をしてのろのろと楽団員達のとこに戻り事情を説明したら皆は


「まぁ…仕方ないよ。団長もグレンを後継に考えてるんだからさ。グレンだって魔法も上手いし大丈夫だろ?」


「そうそう、俺たちもフォローするからよ!やってみな!」

 と気軽に言われて終わりで僕は落ち込みつつも練習して…夜会のショーをとにかく笑顔(?)で皆の手も借りて完璧にこなしたつもりだ。


 *

 ショーが終わった後休憩室で皆とボソボソ食事をしたりしていると兵士さんがやってきてドキリとした!!


 ひっ!?何か失敗したか?

 ホールでは音楽がまだ鳴り響いて人々の談笑が多少聞こえるくらいだ。


「何かありましたか!?」

 団員の一人父さんの右腕とも言われる親友マーカスが応対してくれた。というかマーカスがショーしたら僕よりも出来のいい魔術が繰り広げられていたかもしれない。


「先程の黒髪の青年はいるか?」


「えっ!?」

 僕!?な、なんかした!??怖っ!!


「グレン?うちのが何か?」


「王女ルーシー様よりお茶会の招待状だ。貴殿のショーをいたく気に入っておられて後日、招待したいと。これは名誉なことである」

 と招待状を渡されてポカンとした。

 団員達から


「おおお!スッゲーな!!グレン!!やるじゃん!!」


「とりあえず衣装の見栄えのいい貴族風の服でも着てけ!!」


「ちゃんと王女様に失礼なくしろよ!!」

 と言われて戦慄した!!おおおお王女様としゃべ…喋るうああううあうう!!?


 神よ!僕が何をしたというのですか!!?


 *

 そうして僕はお茶会に呼ばれた。貴族風の漆黒の色の服を着て…ちょこんと素晴らしい薔薇が咲き誇る庭園の中で見たこともない高級菓子がタワーのように積み上がり見たこともない高級なティーカップに入れられた紅茶を前に…向かいににこにこと蒼の瞳をキラキラと光らせている。髪は金色で自分と正反対に輝き眩しい!!

 ついでに胸がデカかった。見るつもりは無くとも視界にどうしても入る。興味はないけど重そうだと思った。


「先日のショーは大変素晴らしかったですわ!」

 お褒めをいただいたので何か失敗したのではないと知り安心した。


「そ…あ…ありがとう存じます」

 と言い慣れない言葉を使う。するとハッとしたように王女のキラキラの瞳が大きく開いた!


 はっ!?何か僕失礼をした?お礼を言っただけだけどまさか変な言葉遣いだから!?

 と青ざめていると


「す、素敵…素敵なお声ですわね…グレン様♡」

 と言われた。


 は?


 素敵??


 よく意味がわからないが。


「ええ!お声も髪も瞳もグレン様もグレン様の魔法も全部全部素敵です!!私惚れ直しましたわ!!」

 と言う王女様に今度はこっちが驚く。

 何が起こっているんだ!?


「どうやら調べましたところ貴方の楽団【シルバーワンド】には多大なる借金がございますのね。だから旅などしているのですね?」


「え…どうしてそれを…」


「調べたのですわ」

 まぁ…王族だから容易いだろう。何か弱みでも握るつもりなのかな!!?早くこの場から去りたい。人と話をするのもしんどい。


「私カボチャが嫌いですの」

 急に話題が変わった。


「は…はぁ…??」


「この国…カボチャだらけでしょ?皆何かに洗脳されたようにカボチャを崇めるのよね。私は正気ですけど」


「伝統とかそういうものかと…」

 と言うと王女様は


「それも確かにありますけど私はカボチャが嫌いなのですわ!ですからグレン様にお願いがございますわ!」

 え?凄く嫌な予感がする。


「お、お腹が痛くなったのでそろそろ失礼しま…」

 ガタンと立ち上がり去ろうとしたら腕を掴まれ重そうな胸を押し当てられた!!


「!!?」

 ムニっていう柔らかな感触に驚く。女性の胸てこんな柔らかな!?


「借金を肩代わり致しますから私の偽物を作り…私を楽団に入れて貴方のお嫁さんにして欲しいのです!!」

 と言われた。


「え…嫌です…」


「え…即答!!?な、なんで?」

 なんでも何もほとんど初めて会った王女様に分身を用意しろとか言う危険なリスクと誘拐とも取れる楽団への動向と僕の嫁と言うカモフラージュの意味が不明だ。


「なんでと言われましても常識的に無理かと」


「私の偽物が作れない?」


「…出来ますけどそんなことしたら僕は王女誘拐罪で斬首刑です」

 と言うとルーシー王女はさらに胸を押しつけた!!


「…そんな事は私がさせませんわ!私がお嫌い?めちゃくちゃ良いお嫁さんになりますわ!!カボチャの無い国や街を回りたいの!!」

 と言う。成る程それが本音らしい。カボチャ嫌いの王女様はこの国から出たいらしい。嫁はやはりカモフラージュだ。


「だから無理で…」


「私諦めませんわ。既にお父様にもお内密にお手紙を出しておりますの!」


「えっ!?」

 どうしよう、父に手紙を出して借金の肩代わりとか聞いたら快く協力しなさいと言われるかも!あの父だ!間違いなく言う!!


「ここ困ります!!そんな!…だからリスクが…」


「どうしてもダメなのですか!?私一目見てグレン様を気に入りましたの!貴方ならここから連れ出してくれると!」


「は?いや…お姫様を守るのは騎士なので騎士様にお頼みしたらどうでしょうか?」

 と言ってみると


「…何で私が汗臭い騎士達にお願いしなければなりませんの?あんな…剣にカボチャのマークを刻んでいる悍ましい連中に!」

 と王女がブルリと毛を逆立てた。

 本当にカボチャが嫌いらしい。


「どうしてもダメですか?」


「だ…だダメです…」

 無理すぎるし無茶すぎる。


「……そうですか?ではここに衛兵を呼びますわ…」


「は!?」


「グレン様に乱暴されて子供ができるようなことをされたと言います。死刑になりますわ」

 となんと脅された!!怖い!王女怖い!!


「そそそんな…」


「一日あげますわ。よくお考えになってください!監視の目を付けますから逃げても無駄ですわ!」

 と言い放つ王女様。


「そ…そんな…」

 なす術もなく落胆してると頰にチュっと柔らかな感触がした。


 え!!?


 これって…。


 母親にもされたことのないまさかの頰にキスだった。うちの母親は他所に男を作り僕には愛情のかけらも見せない人だったから。


「……な?なにを…」

 急にされて驚いた。


「良い返事を期待しておりますわ!グレン様!」

 にこりと微笑みやっと腕を離してくれた王女様。


 僕は礼をして逃げるように…本当に逃げてお茶会を後にした。後手土産に高級菓子貰った。カボチャは入ってない。

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