第55話


幸いな事に俺が治した人達は全員助かった。


残念な事に俺が来る前に死んでしまった人も居たようだが、それは俺も気絶していたししょうがない事だったと割り切った。



「晴輝君、毎度毎度本当にありがとう。今回もかなりの数の犠牲者が出ちゃったけど、それでもこれだけ生き残れたから良かったと思う事にするよ。」



コナーは悲しげにそう言った。


それもそのはずだ。コナーにとってここの人達はほんとうに大切な存在なんだ。


それが1人でも死んでしまうだけでもかなりの苦痛なはずだ。



「他の所でも同じような事が起こったらしいんだけど、うちは他のところよりも被害が大きいらしいね。晴輝君とかも居たにも関わらずこの惨状だから、うちの所に来たモンスターは他の所よりも多かったみたいだ。」


「そうか、他の所にも来たのか…………。」


「うん、他の所は前回とほとんど同じくらいの規模でしか来なかったらしいから、大体のところは何とかそこまでの被害を出さずに退けられたらしいんだけど、僕達のところはかなりの被害を出してしまった。これは復旧が大変そうだよ。」



コナーは悲しみを隠すかのようにあっけらかんと振る舞った。


本当にこの人は俺と同年代なのか分からなくなってくるほど、周りの事を気遣った振る舞いだ。


何か慰めの言葉をかけようとは思ったが、今のコナーにかける言葉が思い浮かばない。


せめてそっとしておこう。



「俺はゆうちゃんの様子を見てくる。コナーと陽夏はどうするんだ?」


「あっ、僕はみんなに指示を出さなきゃ行けないからもうそろそろ行くよ。」


「私は晴輝に着いていこうかな。」



陽夏は俺に着いてこようとした。


あ、そうか、そういえば陽夏にはゆうちゃんの事を伝えてなかったな。



「陽夏、伝え忘れていたがゆうちゃんはこの前なんと言うか死んだんだ。」


「…………え?」



陽夏は青い顔をした。



「ご、ごめんなさい、私そんな事知らなくて…………。」


「いや、大丈夫。言ってなかった俺が悪い。」



言ってないのに察しろというのはそれこそ理不尽という物だ。



「俺がゆうちゃんを生き返らせるまでここに寝かせて貰ってるんだ。回復が出来るスキルを出来るだけレベルアップさせて居るんだが、今回は少し進展があったから試しに使いに来たんだ。」


「生き返らせるって…………。いや、晴輝なら出来る気がするわ。実際晴輝だって生き返ったわけだしね。」


「っ! あぁ! そうだよな!」



そうだ。


俺は生き返ったんだった。


ならば、ゆうちゃんを生き返らせる術は必ずある。



「じゃあ、私はこっちに残るね。ゆうちゃんとの時間を邪魔する訳にはいかないからね。」


「分かった。ありがとう。」



陽夏は気を使ってくれたのか、コナーと一緒に何処かへ行った。


復旧には労働力が必要だし、後で手伝いに行くか。


俺はそんな事を考えながら、ゆうちゃんの元へと向かった。





◇◇◇◇




私はコナーに頼まれた瓦礫の撤去と負傷者の捜索をしていた。


何をやっていても私の頭に残るのはゆうちゃんの事だ。


この前聞いた時は付き合ってるとは言っていたが、ぶっちゃけ冗談か何かかと思っていた。


だって、普通に考えればゆうちゃんは子供だし、大人である晴輝が本気にして付き合うなどおかしな話だ。


だが、よくよく考えてみれば晴輝ならやりかねない。


この前も全然モテないって言ってたし、というか引きこもりだったらしいし、感覚が少し変になっていてもおかしくない。



「はぁ…………。」



私はため息をついた。


あまりにおかしな関係とはいえ、付き合っているといえば付き合っているのだ。


つまりこの前私がやったのは彼女持ちの男の子が寝ている時にキスをしたということで、許されざる事だろう。



…………いやでも、あれはその、そう。人工呼吸。人工呼吸をしようとしていただけだ。


別に変な事をしようとした訳じゃない。


うん。そういう事にしよう!



瓦礫を片付け、誰かが下敷きになっていないかどうか確認する。


瓦礫の冷たさが私の思考を冷やしていってくれた。



はぁ、私はいったい何を考えているのだろうか。


晴輝への罪悪感で変に逃げようとして思考が変な方向に行っている。


彼女持ちの男の子に何かをしてはいけないという思考と別にその彼女が死んでしまっているなら何をしたって良いじゃんという最低な思考が頭の中でぐるぐると回ってどんどんと悪い方向に行っている気がする。



この気持ちは多分、嫉妬とか言うものなのだろう。


あの時の…………あのゆうちゃんの話をしている時の晴輝の表情がずっと頭に残って離れないのだ。


ゆうちゃんは晴輝に本当に大切にさせれていたのが分かる。


けど、私はどうだろうか。


私はゆうちゃんより少しは付き合いが長い筈なのに、晴輝の気持ちは私には向いていない。



「…………いいなぁ。」



自然と言葉が出てしまった。


死んでしまっても愛される。


本当に素敵な事だ。


だが、その気持ちが私じゃない人に向いているという事が私の思考を最低なものにする。



…………本当に、私はどうしてしまったのだろうか。



そんな気持ちを振り払う為にも、私は黙々と作業を続けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る