第54話



「まず、晴輝が気絶した後は、私はすぐに晴輝の様子を見に行ったの。そしたら晴輝は…………えっと、なんて言えばいいのか分からないけど、多分…………死んでたの。」


「…………え?」



ちょっと待ってくれよ、俺が死んでた? そんな訳ないだろ。


だって俺は今ちゃんと生きてるぞ?



「まぁ、一旦話を聞いてちょうだい。その時は確実に首と胴体が離れ離れになってたし、少なくとも生きている様子は無かったの。首と胴体をくっ付けたりもしたんだけど、生き返る様子とかもなくて本当に死んじゃったって思ったわ。」


「ええっと、じゃあなんで今俺生きてるの?」


「それは…………分からないけど、多分晴輝が持ってる…………ばく? とかいうスキルの影響だと思うんだけど、何か心当たりは無い?」


「ばく…………いや、無いな。」



そんなスキルを手に入れた記憶は無い。


俺は箱の力を使ってかなりの数のスキルを獲得してるが、そのスキルはちゃんとメモしたりしていた。


とすれば箱の力を使わないで手に入れたスキルという事なのか?


後でコナーに確認してもらおう。



「それで続きなんだけど、何とかして生き返らそうと頑張ってたら爆発音がしたの。びっくりしてそっちの方を向いたらあの女の人の首があって、晴輝に抑えられてた時みたいに火の玉を色んな所に撃ってたの。私はもう力を使い果たしていてその頭にトドメを刺す程の力も無くて、ただ呆然としていたの。」



陽夏は少し辛そうな顔をした。


仕方が無いだろう。聞いた限り怖い思いをしたみたいだし、トラウマになっていてもおかしくない。


まぁ、それの原因の一部に俺も関わっている訳だがな。



「そして、顔がこっちを向いた時私は…………えっと、その、怖くて目を閉じたの。それで死ぬのを待っていたんだけど、ちょっとしてから晴輝の声でって言うのが聞こえたの。最初は幻聴かと思ったんだけど、痛みが全然来なかったから目を開けてみたら晴輝が起きて私を守っていたの。」



なにそれかっこいい。


けど、俺はそんなことした記憶は無い。


記憶喪失とかそういった類のものなのかもしれないが、少なくとも俺にはそれをする力は無い。



「その後、晴輝は私を回復してからその女の人の顔の所に行ってまたばくって言うやつを使ってその女の人の頭を吸収してたの。覚えてない?」


「あぁ、さっぱりだ。と言うかそんなスキルとかを手に入れた記憶も無いから本当に何が何だか分からないんだ。」


「そっか。まぁ、その後晴輝がまた倒れちゃったから、私が膝枕をしてあげていたのよ。どう? これで晴輝が今回の戦いの1番の功労者って事が分かったでしょ?」


「まぁ、実感は無いがな。」



記憶のないことで褒められているため、なんだか微妙な感覚だ。


それにしてもだからといって膝枕をしてくれるなんて陽夏は優しいな。


今なら優しくされたらすぐに好きになっちゃう男の気持ちが少しは理解出来そうだ。


だが、だとするとそれはそれで陽夏が心配だ。



「なぁ、陽夏。忠告なんだが、俺みたいなおっさんにあまり優しくしない方がいいぞ? 別に嫌だった訳じゃ無いんだが、勘違いしてしまうからな。陽夏は可愛いし、変に勘違いされたら陽夏に危害が加わるかもしれないから気をつけるんだぞ?」



陽夏は優しいし、言い寄られたりでもしたら断りきれずに酷い事をされてしまうかもしれない。


まぁ、人間関係が浅い俺の考えだから案外バッサリ切り捨てるかも知れないけどな。



「べ、別に晴輝にだったら勘違いされても「晴輝君! 無事かい!?」


「ん? 陽夏、なんか言ったか?」


「い、いや、何でもない…………。」



陽夏と話しているとコナーがこっちに走ってきた。


服などもかなりボロボロな様子を見るに、かなり激しく戦ったことが伺える。



【快治】



俺はとりあえずコナーを回復しておいた。



「あぁ、ありがとう。って、僕よりもまずは重傷者を治してくれないかい!? 怪我人に頼むのもあれだけど、君にしか出来ないんだ! どうだい? 出来そうかい?」


「あぁ、分かった。すぐに行く!」



そういえば完全に頭から抜けていたが、あの女の人以外にもゴブリンやウルフも攻めてきていたんだった。


コナーの様子を見るに、楽に退けられた様子では無いが、少なくとも退けられはしたようだ。


とりあえず俺は負傷者を治す事に尽力しよう。



「コナー、案内してくれ!」


「了解!」


「わ、私も着いていくわ!」



俺達はコナーに着いていき、ホテルの一室に向かった。


向かった先はかなりの地獄絵図だった。


肩から先が無くなっていたり、片足がグチャグチャになってしまっていたりする人達が何人も居た。



「とりあえず1人ずつ治していくから、皆待っていてくれ!」



俺は大声を出してみんなに知らせた。


いつもだったらこんなこと絶対に出来ないのに、陽夏の優しさに感化されてか、人前でも堂々と振る舞えている。


俺は怪我が重症そうな人から順番に治していった。


怪我が治った人達は、泣いて喜んだり、奇跡だと唖然としたりしていて、まぁ、ぶっちゃけ気分は良かった。


俺がひねくれているからこんな考えが出来るのか分からないが、やはり世のため人のために何がするということは自分がいい気分になる為にやっているとも思えてしまう。


…………いや、違うな。


陽夏は少なくともそんな様子で俺を気遣っていた訳じゃ無い。


純粋なる相手を思う気持ちであの行動になっていたのだ。


俺も人のために行動していれば陽夏のような考えで動けるのだろうか。



まぁ、そんな事考えていても目の前の怪我人達は治っていかない。


俺は無駄な事を考える暇もなく、治療を続けた。

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