第50話
俺は適当な建物に入ってすぐに《快治》を俺と陽夏にかけた。
腕がほぼ使えない状態で使えるのか少し不安だったが、それは杞憂だったようで、通常通り使えた。
俺の腕は少し時間がかかったが、しっかりと治った。
陽夏は服がボロボロになっていて少し目のやり場に困ったが、しっかりと治った。
「他にどこか痛むところは無いか?」
「う、うん。」
照明も着いていないので顔色は分からないが、まぁ、声音からしても無理しているようには聞こえないので大丈夫だろう。
「えっと、ありがとう、助けてくれて。私、多分あのまま一人で戦ってたら死んじゃってたと思う。」
相当怖かったのか、声が震えてしまっている。
そりゃそうだ。大人ですら本当に死にそうな体験をしている人が少ないこの時代でこんな若い子が体験していい事じゃない。
「陽夏、申し訳ないが俺はまだお前を守ってやれるほど強くない。」
俺は陽夏の頭にポンッと手を乗せ、わしゃわしゃと撫でた。
「ひゃっ!?」
「あぁ、ごめん。びっくりしたか?」
「あっ、いや、大丈夫。」
陽夏は不思議そうな顔をして頭を抑えた。
「まぁ、できる限りの事はするよ。陽夏には前に助けてもらった恩もあるしな。」
本当はささっと全部解決出来ればかっこいいんだろうが、あいにくそれほどの強さは無い。
だけど、ゆうちゃんやここの人達を助けるため、そして陽夏への恩返しをする為にも一肌脱ぐことにしよう。
「…………分かった。けど、無理だけはしないでね。貴方が強いのは分かったけど…………それでも心配なものは心配なんだからね!」
陽夏は指をこっちにビシッと突き立ててそう言った。
ちょっと可愛いな…………って、いけない、俺にはゆうちゃんが居るんだ。
他の女の子に目移りしちゃいけない。
浮気ダメ絶対。
「よし、じゃあそろそろ行くか。」
さっきまで遠くで聞こえていた爆発音が少しづつ近ずいて来ている。
手当り次第爆撃していってる様なので、いずれここも見つかってしまうだろう。
だったら奇襲をしかけた方がいい。
「けど、あんな化け物どうやって倒すの? 攻撃した感じではまぁまぁ頑丈そうだけど…………。」
「それは俺に考えがある。」
その考えとは、俺があの女の人を後ろから抑えつけ、動けなくなったところに俺ごと切る勢いで陽夏に全力の1発を入れてもらうという作戦だ。
俺にはそこまでの攻撃力は無いが、回復なら出来る。
だからこれが今俺が考えられる中で一番確実にあの女の人を倒せる方法なのだ。
俺はその作戦を陽夏に伝えた。
「ちょ、そんなのダメに決まってるじゃない! 危険すぎるわ!」
「けど…………それくらいしか方法は無くないか?」
俺がそう問うと、陽夏は一生懸命考え出した。
「…………あ、コナーを呼ぶとか!?」
「駄目だ。そんな時間は無い。」
こうやって話しているうちにも刻一刻と状況は悪くなっていっている。
コナーを呼びに行っている時間があればあの謎の女の人は甚大な被害を出せるだろう。
あの威力の攻撃を普通の人がくらったらひとたまりもないだろう。
避難は済んでいるだろうが、それでも何があるかは分からない。
もしあの女の人がゴブリンをせき止めている最前線に現れたりでもしたら一瞬で戦線は崩壊するだろう。
そんな事があってしまえば少なくともここの人達はほとんど死ぬだろうし、何よりゆうちゃんへと被害が及ぶ。
だからそれだけは絶対に阻止しなくてはならない。
「とりあえず行くぞ!」
陽夏は最後の最後まで何か言っていたが、それは無視して走り出した。
陽夏は文句ありげな顔だったが、渋々と言った感じで着いて来てくれた。
爆発音は近くで聞こえたが、何処にいるかまでは分からないので、あの女の人に気付かれないようにしながら探していく。
女の人自体はそこまで大きくないが、あんな威力の攻撃を色んな所に撃っているため存在感は非常に大きい。
そのため、大体の場所は分かるので、直ぐにその場所へは行かず、少し離れた位置からゴブリンやウルフを倒しながら様子を伺った。
「晴輝、居た。」
陽夏が指を指した方にはキョロキョロと辺りを見渡すあの女の人が居た。
俺を見失ったためか、そこらじゅうを撃ったりはしておらず、比較的大人しくしていた。
やはりあの技を使う為にはある程度何かを消費したりするのだろうか。
本当にそうなのだとしたらその何かが消費され尽くすのを待つと言うのも手だが、それが本当だと分からない限りその手を使うのは危険だ。
だったら今のままの作戦で行くべきだ。
俺たちは女の人の様子を伺った。
女の人は周りを見渡しながらも少しずつゴブリン達をせき止めている最前線へと近ずいて行っている。
まずいな。このままでは最悪の事態を招いてしまう。
もう様子を伺ったりする時間も無くなってきたようだ。
「陽夏、そろそろだ。」
「や、やっぱりダメ! そんな危険な事させられない! やっぱり助けを呼ぼうよ!」
「俺だってこんなことやりたくないさ。けど、ダメだ。
ここで俺たちがこいつを食い止めなくてはどれだけの被害が出るか…………それは陽夏も分かってるだろ?」
「それはそうだけど…………。」
陽夏は悲しげに目を伏せる。
「俺は大丈夫だ。引きこもりの生命力舐めんなよ? ちょっとやそっとじゃ死なないから安心しろ。だから、今回は俺に任せてくれないか?」
いくら俺がそう言っても陽夏は納得してくれないかもしれない。
だが、それでも今はこれ以外に方法は無いだろう。
陽夏には何か言われる覚悟で言ったが、帰ってきたのは意外な返事だった。
「…………分かった。」
驚いた。
こんなに素直に納得してくれるとは思わなかったため、少し唖然としてしまった。
「けど、その代わり、絶対死なないって約束して。」
そうか、この子は俺の事を心配してくれているのか。
分かってはいたが、 心のどこかではまだ分かっていなかったようだ。
俺はもう独りじゃないんだ。
「ははっ、これじゃ本当に死ねなくなっちゃったじゃないか。」
「ん? 死なないって約束するの?」
「あぁ、絶対に死なない。約束するよ。」
少し感極まりそうになるのを我慢しつつ、1歩前に踏み出した。
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