第51話
再度女の人を確認すると、未だに俺達のことを探す為
にキョロキョロとしている。
「タイミングは陽夏に任せる。躊躇はしなくていいから思いっきりやってくれ。」
「うん、わかった。けど、それ本当に大丈夫なんだよね?」
「あ、あぁ。大丈夫、大丈夫。」
「ちょっと!? 心配なんだけど!?」
はっきりいって、大丈夫かは分からない。
いくらスキルが強いからといってどこまで信用できるかは分からない。
ただ、今現在それに頼る他無い。
陽夏は不安げな顔をしつつも、一応は了承してくれた。
「じゃあ、行ってくる。あとは頼んだぞ。」
俺はそう言い残し、女の人がこちらを向いていない時を見計らって、気配を消しながら進んで行った。
心臓の音がやけにうるさく感じる。
元々俺はこんなこなことをする柄ではないし、こうなっても仕方が無いのだが、それでも自分の小心者っぷりに苛立ってしまう。
それでも、こんな俺だけど、この位は成し遂げてみせる。
女の人への距離が30メートルほどまで縮まった。
この程度の距離なら気付かれずに抑えることが出来るだろう。
俺はタイミングを見計らって飛び出した。
1秒程でその女の人への今日は数メートルにまで縮まったが、その時、女の人が気づかれてしまった。
しょうがない。もうこのまま行くしかない。
女の人は後ろに跳ねたが、その速度よりも俺の方が速い。
俺は最初の速度のまま、女の人に勢い良く突っ込み、そのまま腕を掴んだ。
これで杖を向けられることも無いため、あの攻撃は出来ないだろう。
ちらっと陽夏の方を見ると、何やら物凄くかっこいい構えをして魔力を溜めていた。
このままでは女の人よりも先に俺に攻撃が当たってしまうため、向きを変え無ければいけない。
「おらっ!」
力任せに女の人を動かそうとした。
スキルを手にして力も強くなったからすんなり動いてくれるかと思ったが、現実はそう甘くはなかった。
この女の人が思ったよりも力が強かったのだ。
その華奢な体からどうやってそのパワーが出てるのか不思議なほどの力だ。
俺は女の人の足を思い切り蹴った。
加わっていた力が弱まる。
その隙に女の人との位置を反転させた。
少し非道な行為だが、勝つためだ。仕方が無い。
俺はそのまま女の人を抑えていたのだが、何やらその女の人が何か話し始めた。
相変わらずなんて言っているのかは分からないが、何故だかとても嫌な予感がする。
そして、1秒も経たないうちに俺の目の前に小さな火の玉の様なものが現れた。
それは撃てなくなったはずの火の玉とそっくりだった。
次の瞬間、俺の頭部に鋭い痛みが走った。
「ぐっ!?」
あまりの痛みに目が開けられない。
しかし、目を閉じても痛みが貫通してくる。
こいつ…………杖が無くてもこの技が使えるのか…………!?
前ほどの威力は無いが、それでも俺を殺さんとする威力があった。
さっきは黒鉄があったからまだ良かったが、今回は直に当たっている。地獄のような痛みだ。
くっ、意識が…………っ!?
「晴輝!?」
陽夏の声が聞こえ、少し意識が回復する。
そうだ、陽夏には攻撃に集中してもらわなくてはいけないんだ。
俺に構ってる暇なんてない。
俺はすぐさま叫んだ。
「俺の事はいい! それより早く攻撃をしてくれ! ありったけの力を込めた全力の一撃を! ぐぅっ!?」
「っ!?」
口を開けると熱が身体中に駆け巡った。
まるで身体中の全ての細胞が焼かれているようだ。
いくらスキルがあるとはいえこの痛みには耐えきれない。
痛みに負け、女の人の腕を離してしまいそうになるが、更に力を込めて絶対に離れないようにする。
その時、空気が変わった。
そして俺は悟った。
準備が出来たのだと。
陽夏の何かを呟く声が聞こえる。
チャキ、と刀の構える音がした。
全ての熱が陽夏に奪われていくかのような感覚。
【鬼術-七月流火】
凄まじい力の流れを感じる。
その流れは全ての熱を奪って行った。
今俺を取り巻いている熱や、空間そのものの熱。そして、命の熱までも奪っていった。
その声と共に俺の意識は途絶えた。
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