第46話

家に戻った俺は早速箱を開け始めた。

自分に治癒をかけながらだ。


前まですぐに空いていた箱が今では酷く時間がかかるように感じる。

すぐに開けなければという意識がそれを起こしているのだろう。


「早く開けよ!」


箱を開ける手に力が入る。

かなりの力をかけてもビクともしないその箱にイラつきながらも、黙々と箱を開け続ける。


【スキル《治癒LV2》を入手しました】


俺はその声を気にもとめずに箱を開け続ける。


少しでも早く。


少しでも早く。


ただその一心で箱を開け続ける。


【スキル《治癒LV10》を入手しました】

【スキル《治癒LV10》がスキル《完治LV1》に昇格しました】


どのくらいだっただろうか。

かなりの時間が経った。


俺は特に気にすることも無いと思い、また箱を開け始めようとした所で違和感に気づいた。


治癒が掛からないのだ。


まさか。


俺はある事を思いつき、腕を思いっきり噛んだ。

《金剛力》は顎力も向上させてくれるのか、俺の腕にはかなり深い噛み傷がついた。


【完治】


俺は全身に完治をかけた。


「はぁ…………やっぱりか。」


ため息をつきながら思考を巡らせる。

今の検証で分かったことは、《完治》は少しでも傷が無いと使えないという事だ。


これはかなり面倒くさい。


何故なら、今までなら治癒を掛けながら箱を開けることが出来たが、今は1度傷を付けなくてはならないのだ。

いちいち傷を付けるたびに手を止めていては非常に効率が悪い。


「くそっ!」


俺は高く積まれた箱を蹴り飛ばす。

がらがらと音を立てて空き箱たちが崩れていく。


「なんでこんなに上手く行かないんだよ! 俺は……俺は選ばれた人間なんじゃ無いのか!?」


なんでこんなに…………。


そうか、忘れてたよ。

俺はにはなれないんだったな。

だったら…………だったら出来ることをやるまでだ。

あの時の二の舞には絶対にしない。


俺は舌打ちをして、家を見回す。


俺の目に着いたのはガスコンロだ。ガスコンロは屋外のプロパンガスを使っているから電気などが止まった今だとしても使える。


チチチチチ


何も乗っていない為か、火がつかない。

コンロの真ん中の凹む場所を押してみると、火がついた。


「よし、これなら…………!」


俺は思い切ってコンロの上に乗っかる。


「あっつ!」


あまりの熱さにすぐさま離れてしまう。

だが、我慢しなくてはならないだろう。

コンロなら継続的に俺の体を傷つけてくれる。そうすると俺は完治をかけ続けられる。


俺は痛みに耐えながら箱を開けた。


【スキル《完治LV10》を入手しました】

【スキル《完治LV10》がスキル《快治LV1》に昇格しました】


2回目の昇格だ。

その間に完全再生のレベルも何レベルか上がった。


快治。コナーからは聞かなかった言葉だ。

これならと似たような事が出来るんじゃないか?


俺はすぐさま家を出た。


本当はこれで蘇生をできるとは思っていないが、少しでも状態を良くしておきたい。


そこら中に溢れるゴブリンたちは気にとめずに俺は走り出した。




◇◇◇◇



ホテル街に入ろうとすると、夥しい数のゴブリンが待ち構えていた。

来る際に居たゴブリンも少し多いとは思っていたが、今俺を立ち阻んでいるのはもっと多い数のゴブリン達たった。

この前戦ったえぐい数のゴブリン達よりも更に多い。


「なんだよこれ!」


まさか、この前の時のようなことがまた起こったのか!?


俺はとりあえずゴブリンを倒し始めた。


スキルのレベルがあがったおかげか、ゴブリンが弱く感じる。

ほぼほとんどのゴブリンが1発で倒れていく。

しかも、少し攻撃をくらったりしてもほとんどダメージにならないし、すぐに回復出来てしまう。

しかし、数が多すぎて、半数ほどまで減らすのに五分ほどかかってしまった。


俺は、苛立ちつつも先へと進んだ。



すぐに俺の目に入ってきたのは…………何人もの倒れた人達だった。


「だ、大丈夫ですか!?」


慌てて駆け寄るが、既に息をしていなかった。

一応快治をかけてみるが、体の傷が無くなるだけで息を吹き返すことは無かった。


これで快治に蘇生効果が無いことが分かってしまったが、このまま帰る訳にも行かないので急いで先に進む。

何かあってゆうちゃんに被害が出てしまうといけないからな。


途中に何体ものゴブリンやウルフに出会ったが、瞬殺して進んでいく。


進んでも進んでも生きている人間に出会わない。

嫌な予感しかしない。


ゆうちゃんの所に向かう為に防衛者組合へと向かうと、大きな音が聞こえてきた。


少し不謹慎かも知れないが、俺は喜んだ。

なぜなら生きてる人に1回も合わなかったため、全滅してしまった事も視野に入れて考えていたからだ大きな音がなっているという事は、ちょうど今戦っているということだ。


ならば、俺が今やるべき事は助太刀をする事だろう。


俺は急いで防衛者組合へと向かった。



防衛者組合につくと、そこらじゅうにウルフやゴブリンが集まっていた。


やっぱりここに人が集まっているようだ。


俺は俺に気が付いていないモンスターどもをばっさばっさと切って行った。

ちょっと、気持ちいい。


モンスターどもは興奮しているのか、こちらには見向きもせずに防衛者組合に群がっているので、俺は楽にその数を減らせた。


やっと防衛者組合の入口が見えてきた頃、誰かが俺の名前を呼んだ。


「あっ、晴輝じゃない!」

「げっ。」



俺に声をかけてきたのは、身体中をボロボロにした陽夏だった。


「あんたその力…………。まぁ、いいわ。先に防衛者組合の中に入って! 負傷者が沢山いるの!」

「分かった!」


陽夏には箱の事を話していないため、この強さは不自然だったのだろう。

普通の時なら詰め寄られている所だろうが、あいにく今は非常事態。こんな時にまで詰め寄るほど陽夏も馬鹿ではない。


俺は陽夏の指示通りに防衛者組合の中に入る。


だが、その前に。


【快治】


ボロボロだった陽夏と、その周りでモンスターを押さえつけていたおっさん達に回復をかけておいた。


「やっぱりあんた何か隠してるわね…………。まぁ、いいわ! 早く行って!」

「へいへい。」


俺は陽夏に何か言われる前にさっさと負傷者の元へ向かった。



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