第45話


ゆうちゃんを抱えて俺は歩いた。


ゆうちゃんの顔はいくら見ても死んでいるとは思えない、綺麗で生き生きとした顔だ。


こんな出来事も日常茶飯事となったこの世界では亡骸を持ち運ぶ人も当たり前となってしまったのか、それともまさかこの綺麗な女の子が死んでしまっているなど思いもしないのか。

すれ違う人々は俺たちの事を認識しない。


俺は一直線にコナーの元へと歩く。



「あ! おかえり! えっと、ゆうちゃんは近くに居るのかな?」

「死んだよ。」

「えっ。」


コナーはあまりの事に固まってしまう。


「凪だ。あいつが俺たちの事を襲って来た。」

「なんだって?」


コナーは狐につままれたような顔から一変して真面目な顔をした。


俺はダンジョンであったことを事細かに説明した。


ダンジョンの様子や、凪の様子。そしてゆうちゃんが死んだことについてだ。


コナーは深刻そうな顔をした。


「ダンジョンについては分かった。そんなことよりも君自身は大丈夫なのかい? だって、ゆうちゃんは君の最愛の人だろう? それが死ぬって相当堪えるはずだよ。…………僕は君の心が心配だよ。」


確かにゆうちゃんが死んでしまったのは相当堪えた。

死のうかとも思った。

だが、そんなことしてる場合じゃない。


「大丈夫だ。俺は必ず全てを取り返す。」

「取り返すって…………死んだ人は…………いや、わかんないか。」


コナーは俺の顔を驚いた様子で見るが、すぐ悲しそうな顔をした。


「それに思ったよりもダメージは少ないんだ。この前言っていたじゃないか。スキルのせいで互いに魅了されあってたって。それが当たっていたようだ。悲しい事にな。」


ゆうちゃんが死んだとき。俺は思ったよりもショックが少なかった。

多分アイドルの効果が切れたことによって魅了が解けてゆうちゃんへの気持ちが減ったという事なのだろう。


ゆうちゃんの顔を見ても今まで以上の感情は湧いてこない。だが、それでもゆうちゃんは本当に可愛いと感じるし愛しくも思う。

ゆうちゃんは俺にとって本当に必要な人だ。それだけは変わらない。


「コナー。ゆうちゃんを出来るだけ丁重に預かっていてくれないか? 俺は今からゆうちゃんを生き返らせる手段を見つけてくる。」

「うん…………。それは良いんだけど、僕には悠ちゃんが何処に居るのか分からないんだ。だから預かるにも預かれないんだ。」


そうか。ゆうちゃんは隠密のドレスを身に付けている。

それは死んでしまっても有効なようだ。


「じゃあ、ベッドでも用意してくれないか? そこにゆうちゃんを寝かしておく。」

「分かった。場所だけなら腐るほどあるからね。けど特段悠ちゃんに何か出来る訳では無いからね?」

「あぁ。分かってる。」


だから俺には暇など無いのだ。悠長なことをしていればゆうちゃんが腐ってしまうからな。


コナーはすぐにベッドを用意してくれた。

ありがたいことに使われていない部屋のベッドを使わせてくれるようで、ここが使われる事はほぼ無いらしいので安全とのことだ。


「晴輝君はこれからどうするんだい?」

「とりあえず箱を開けて治癒のレベルを上げてみる予定だ。何か蘇生が出来るスキルの話などは聞いた事ないか?」

「うーん。折れた腕が一瞬で治ったとか、無くなった体の一部が復元したとかの話なら聞いた事があるけど、死んだ人が生き返ったって話は聞いた事が無いよ。」

「そうか…………。」


箱を開け続けてゆうちゃんを生き返らせることが出来るとは限らない。

だが、背に腹はかえられないだろう。

まず出来ることをやっていくしかない。


「まぁ、何か手伝える事があったら言ってくれよ。出来るだけ手伝うからさ。まぁ、手伝う代わりにこっちの事も手伝ってもらうけどね。」

「ありがとう。」


俺はそう言うとゆうちゃんのそばに行き、頬にそっとキスをした。


コナーは何か言いたげだが、何も言ってこなかった。


「じゃ、行ってくる。」


俺は家に向かって全力で走り出した。



◇◇◇◇



「はぁーー。」


僕はは深いため息をついた。


理由は決まってる。悠ちゃんの死だ。


今回、悠ちゃんが死んでしまった原因はダンジョンで凪に遭遇してしまったことだと思われる。

晴輝君は意識を失ってしたらしく、詳しくは分からないみたいだけど、ほぼ確実に凪によって悠ちゃんは殺されたのだろう。

となると、そのダンジョン行かせたのは僕なわけだから、その根本的な原因は僕になる可能性が出てくる訳だ。


「嫌だぁーー!」


僕はソファーの上でジタバタと手足を動かした。


晴輝君は今後確実に強者になる。

僕はそんな人に恨みを買った可能性がある訳だ。

はっきり言うとまずい状況だ。


今現状このホテル街には様々な問題が発生している。

食糧も足りていないし、治安も悪い。それも全てモンスターのせいだ。だからそのモンスターを倒すことの出来る戦力はいちばん大切なものと言っても過言では無いだろう。

だからここで晴輝君を失うのはまずいのだ。

幸いな事に今のところ恨みの矛先は僕には向いていないようだが、いつ心変わりするかは分からない。


「はぁ。」


僕はもう一度ため息をつく。


「利益的な問題もそうだけど、晴輝君は数少ない同年代だからなぁ。嫌われたくないよ…………。」


兎に角、出来るだけこれ以上晴輝君を傷付けないそうに気を付けよう。

僕はそう決めると仕事に戻った。

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