第47話
負傷者の所に行くと、この前俺が治したおっさんも混ざっていた。
この人は逆になんでこんなに負傷できるんだってくらいの負傷具合だった。
前回もかなりの怪我をしているのにまた戦いに行ける精神は尊敬するレベルだ。
「お前は…………あの時の少年か。 …………俺の事はいい。どうせもう治らない。早く他の奴らを治してやってくれ!」
体を見てみると、右脚と右腕が無くなっていて、他の所もズタズタにされており、見ていられないような様だった。
このレベルの怪我を治すことが出来るかは分からないが、少しでも楽にしてやりたい。
俺は少しでも効けばいいと思い、回復をかけた。
【快治】
光がおっさんを包むと、光が腕の形を作っていき、10数秒後には新たな腕が生えてきていた。
「こっ、これは…………いや、こんな事をしている場合では無い。早く助太刀をしなければ! 何度もありがとう、少年!」
おっさんは深々くお辞儀をして外へ出ていった。
ふぅ、少し疲れるな。
体力を使った事による疲れとは違う疲れだ。
この力を使う為には魔力を使っているようだし、そのせいなのだろう。
それにしてもあのおっさんは本当に凄いな。
家族でもない誰かの為にあそこまで命を張れるなんて。信じられない事だ。
しょうがない。俺は自分を犠牲にすることはしないが、出来ることはやろう。
ここはゆうちゃんを守って貰うためにも必要な場所だからな。
俺は他の負傷者達にも回復をかけて回った。
幸いな事にあのおっさん以上に大きな怪我をしている人はいなかったので、すぐにその場にいる人達を治しきることが出来た。
俺はやる事が無くなったので一息着きつつ、新たな負傷者を待っていると不思議な光景を見た。
前髪を鼻の当たりまで伸ばし、メガネをかけた細身の若い男が男の人を抱えて来たのだ。
そこまではいいのだが、その男が言った言葉が不思議だった。
なぜならその男は、この人は死んでしまっていると言って奥の部屋へと行こうとしているのだ。
だが、抱えられている男はどう見ても息をしている。
「おい、待て!」
俺は男に声をかけるが、男は走り去ってしまった。
仕方ない。追いかけよう。
追いかけていると、強烈な鉄臭さに思わず足を止めてしまう。
そりゃそうか、これから行く先には死体が置いてあるはずだ。その中には血塗れになってしまっているものもあるだろうし、そのせいなのだろう。
俺は意を決して中に入る。
「え?」
俺は絶句した。
なぜなら、
俺はゾンビという3文字が頭をよぎった瞬間、踵を返して逃げようかと思ったが、その奥にいるさっきの男を見て考えが変わった。
その男は、
こいつは何をやっているんだ?
俺が呆然と見つめていると、男はさっきまで生きていた死体に禍々しい杖を振った。
すると、その死体がビクンと脈打ち、やがて立ち上がった。
やばいものを見てしまった。
こいつはここでゾンビの軍団を作っているんだ。
くそっ、こんな時に厄介な事しやがって…………。
いや、こんな時だからこそか。
有事の際には死体が沢山出る。
しかも、その死体に何かしていても気づかれない。
だからこそこいつはこんな事をしているのだろう。
まずい事態だ。
モンスターだけでも壊滅寸前だと言うのに、それにゾンビ軍団まで加わるともう手が回らなくなる。
とりあえず誰かに知らせなくては。
俺が音を立てないようにドアを開ける。
カチャッ
鍵が開く音だ。
ゆっくりと後ろを向くと、ゾンビ達が一斉に俺を見つめていた。
「これはこれは、見てしまいましたね?」
俺は全力で首を振る。
そして、そーっと外に出て、そーっと扉を閉めた。
よし、これで大丈夫!
俺はそのまま何も無かったかのようにその場を去ろうとした。
「あはは、逃がしませんよ?」
「で、ですよねー。」
声の先からはさっきの男と、ゾンビ達だった。
俺は諦めて剣を抜き放つ。
今逃げてしまえば楽だが、外で戦ってる人達にも被害が出てしまう。
そうしたら全滅は免れないだろう。
「くそっ、俺がここで食い止めなければ行けないということかよ!」
「そういう事ですよ。貴方のせいで死にそうだった人が何人も生き返ってしまっているんですよ。はっきり言って邪魔なんですよね。」
くそ、俺はまんまとおびき寄せられたって訳か。
「という訳で、ここでこの子達の仲間になってもらいましょうか。」
「断る!」
俺はゾンビに切りかかった。
「グアァッ、イダイィィ!!!」
「くっ!」
ゾンビは悲痛な叫びをあげる。
だが、こいつらはもう死んでいる存在。
仕方ないと自分に言い聞かせて殲滅していく。
ちらっと男を見ると、驚愕した様子だった。
「あ、貴方のスキルは治癒系じゃないのですか!? …………まさかここまで強かったとは。」
男は何かを考えている様子で何かブツブツと言っている。
ゾンビ達はそこまでの強さを持っている訳ではなく、ゴブリンと同じくらいの戦闘力だったため、すぐに数が減って行った。
「っ!!」
男はもう無理だと思ったのか、走り去ってしまった。
「おい! 待て!」
男に呼びかけるが、反応は無い。
残ったゾンビを片付けた後、男が逃げていった方向へと走る。
色んな方向へと入り組んではいたが、出口と描かれた看板があったため、とりあえずそこへ向かう事にした。
しばらくすると、出口が見えた。
少し時間がかかってしまったため、遠くまで逃げられてしまっているだろう。
俺はとりあえず男の事を伝える為にも外に出た。
「あっ! お前か、止まれ!」
「は?」
俺は何故か剣を突き立てられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます