第42話
「な、凪?」
俺達がダンジョンを登っていると、階段の下のところに凪がいた。
凪は何かをブツブツと呟くだけで、返事という返事はしてこない。
「何を言ってるんだ?」
かなりおかしい様子をしている。
かなり不気味だ。
明らかに敵意がある様眼差しでこちらを見てくるので、大事をとってゆうちゃんは階段のところに戻って貰うよう言った。
「ーーー」
凪は何かを呟いたかと思うと、こちらに手を伸ばした。
そして何かを掴むように手を握った。
俺は何かが飛んでくるのかと思ったが、何も起こらない。
「おい、何をして…………。」
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。」
凪は狂ったかのようにとても普通よ人間が出せるとは思えないほどの声量で叫んだ。
俺はその姿に恐怖を感じた。
俺は凪が心配になって手を伸ばす。
「何やって…………。」
その言葉を言い終わる前に俺の言葉は出なくなってしまう。
俺は慌てて右手を確認する。
ない。
「うわあああぁぁぁぁ!!!!」
何が起きた!?
俺はパニックになってしまう。
周りには俺の血と、俺の血で口を紅くした凪が満面の笑みで立っていた。
「これは…………不思議な味がするっすね。」
「お前、何やってるんだよ!」
俺はそう叫びながら凪から距離をとる。
俺の腕は時間が経てば回復はするからそんな事でパニックになる必要は無いんだ。
そう思いはしても体は付いてきてくれない。
「くそ、痛てぇ。」
これだけで済むのもスキルのお陰なのだが、それでも痛いものは痛い。
少しでも良くするために治癒はかけておく。
息を深く吸うと、少しは落ち着けた気がした。
俺は凪を睨む。
「もぐもぐ…………うん! これは美味しいっすよ! もっと食べたいっす!」
「食べるって…………。」
凪は何故か俺の手を食べた。
そしてもっと食べたいと言っている。
完全に頭がイカレている。
俺は無傷だった左手に黒鉄を握る。
凪に死んで欲しくは無いが、俺が死ぬなんて事になるくらいなら凪は殺さなくてはいけない。
凪は地面を蹴ってこちらに跳ぶように迫ってくる。
キィン!
金属音が鳴り響く。
俺の黒鉄と凪の歯がぶつかり合う音だ。
「「硬いっ(すねっ)!!」」
凪の歯はまるで金属のような硬さだった。
それにこの速さ。逃げるのは至難の業だ。
「なんすか? その刀。なんでそんなに硬いんすか?」
凪はまるで以前に他の刀を食べた事があるかのような物言いだ。
いや、本当に食べた事があるのかもしれない。
良く考えれば人の手には骨が入っていてかなりの硬さの筈だ。
それを軽々と食べてしまうほどの顎力だ。食べていてもおかしくは無い。
俺は弾いた凪に追撃を仕掛ける。
しかし、歯で噛まれ阻止されてしまう。
「あれ、何で食べれないんすかね…………ま、普通に食べれば良いっすよね。」
凪は少し考えたかと思うとニヤリと笑い、俺の肩に齧りつこうとする。
かなりの速さだが、俺も速い。
俺は凪の歯をまた防ぐ。
このままでは埒が明かないな。
俺は刀を構える。
【鬼剣術-二文字】
この技はあの女の人に会う前にゴブリンを退けるために用いた技だ。
あの時から少しでもかっこいい技を考えようとはしたが、こんなのしか付けられなかった。
斬撃は凪へと飛んで行くが、凪は笑みを深めた。
「これは…………! 凄く美味しそう! 頂きま…………。」
ズシャァッ
「え?」
斬撃は凪の胸へ吸い込まれるように当たった。
その顔には先程までの笑みはなかった。
「あれ、何で食べられなかったんすか? おかしい。あんなに美味しそうなのに! なんで!」
凪は床に崩れ落ちる。
凪はさっきの笑みとは対象的な怒りの表情を浮かべる。
俺はもう大丈夫だろうと思い凪へと歩いていく。
「おい、凪。何でこんな事をしたんだ。別に俺はお前に恨みを売ったつもりは無いんだが。」
「嘘だ嘘だ嘘だ、なんで、なんで食べれないの? おかしいよ。あんなに美味しそうな物を食べられないなんて…………今まであんなこと無かったのに。」
凪は俺の声は聞こえていないとばかりに1人で何かを叫んでいた。
凪の胸からは大量の血が流れ出している。
これ以上放置すると近いうちに死んでしまうだろう。
俺は一応ゆうちゃんにもうちょっとそこで待っていてと伝えた。
するとゆうちゃんは足をバタバタさせながら座った。
暇だよな。
早く済ませよう。
俺は別にそこまで凪に恨みがある訳でもないので、助けられる物なら助けようと思う。
「凪…………俺はお前の事を深く知ってる訳じゃないが、そんな人を襲うようなやつだとは思わなかったんだがな…………。助けて欲しければ出来るだけのことはしてやれる。お前も使えるだろうが、俺も治癒を使えるんだ。」
「治癒…………あっ、何これ。血? 痛い?」
凪は初めて気づいたかのような反応をした。
まさか、斬られたことに気付いていなかったのか?
「あ! 待って! 美味しそうな奴だ!」
「え、俺の事覚えていないのか?」
俺は結構気にしていたんだが、凪は全然覚えていないのか…………いや、悲しくないからね!?
少し悲しく…………なってはいないが、とりあえず凪を問い詰めようと凪に迫ると、凪は胸に大きな傷があるにも関わらずに今までで1番の笑みを浮かべた。
「頂きます!【
「んなっ!?」
凪がそう言い放つと、そこにはとてつもなく大きく、獲物を食べる為の牙が無数に付いた
その口は俺の方におおよそ人が知覚出来るであろうギリギリの速度で俺に向かって来た。
そしてその口は。
俺を頭から呑み込んだ。
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