第25話
現場に着くとそこはウルフが溢れかえっていた。
幸いな事にこっちへ入ってくるには橋が1本かかっていてそこを通ってこなければ入って来れないようになっているため、ウルフはそこに集まっていた。なので他の防衛者達はそこを重点的に守る事でホテル街への侵入を防いでいた。
「大丈夫かい!」
「マスター! やっと来たか!」
「被害は!」
「まだ死者は出ていないが、負傷者が何人か出てきている! 回復の出来るやつが居ねぇから取り敢えず後ろに下がらせてる!」
後ろを見てみると確かに何人かが蹲っていた。
みんな酷い怪我だ。
「晴輝! 回復を頼めるかい!?」
「あぁ!」
俺はさっき入手したばっかりの治癒を使う事にした。
戦うよりは全然安全だしそれくらいお易い御用だ。
俺はその人達に治癒をかけようとしたがそこで治癒の効果が少ない事に気がつく。
光の量が家でコナーに治癒をかけた時よりもすごく落ちているのだ。
くっ、何故だか分からないが少しでも範囲を絞って治していこう。
俺は傷の深いところを優先して少しづつ治していった。
治していると、陽夏が驚いたような顔をしてこちらを見ていた。
「えっ、晴輝のスキルは開錠なんじゃ…………。」
あ、やっべ。陽夏には俺のスキルのことを誤魔化していたんだった。
「まぁ、いいわ。今加勢するわ!」
陽夏はそう言ってウルフ達を倒す為に加勢しに行った。
やはり陽夏は強い。迫ってくるウルフを難なく倒している。だが、ホテル街へウルフが漏れないように戦っているため思うように倒せていないように見える。
決定打にかけていて、ウルフの数が少ししか減っていない。
【鬼眼-閉-】
コナーの声が響く。
「今だよ!」
これはゴブリンに使ってた技だな。ウルフ達はいきなり目が使えなくなったことに戸惑っている。
【鬼術-
陽夏がそう呟くと陽夏のオーラが変わった。
いや、オーラが見えるようになったという方が的確か。
今の陽夏はまるで黒い炎を身にまとっているかのような様子だ。
陽夏が今まで使っていた刀を鞘に収め何かの型のような格好をとる。
一瞬世界から音が無くなったような感覚に陥る。全ての音があの刀に吸い込まれていく様だ。
全ての音が消え去った後、刀は抜き放たれた。
【鬼術-鬼斬-】
強かだが、それでして靱やかな一撃。それは1匹どころでなく、数十匹のウルフを一刀両断にした。
一気にウルフ達が消えていく姿を見て俺は慄然とした。
これが強者という物なのか!!
圧倒的だった。他を寄せつけない強さがそこにあった。
「さ、流石だね。目を閉じてるとはいえなんだかこっちまで斬られているような気分になるよ。」
近くにいたコナーのそんな声が聞こえる。もう鬼眼を解いたのかもう目を開けていた。
「彼女の強さはここの防衛者の中でもトップレベルだよ。」
「凄いな。」
俺はその言葉しか出なかった。
今の一撃で半分ほどのウルフが倒れた。
それ程の攻撃をしたというのに陽夏はまだ戦っている。流石に疲労の色は見えるがそれでも凄すぎる。
俺も頑張らなくてはな。
俺はまずは自分が任されている仕事をこなそうと思い、一生懸命治癒をかけた。
「よし、もう動けそうだ。ありがとう。えー、見知らぬ少年! 俺は今からもう1回加勢するからそいつらの事を頼んだ!」
「分かりました!」
その40代くらいの男はそう言うと自分もウルフの所へ突っ込んで行った。
動けるとは言ってはいたがそのレベルの怪我じゃない。
俺が左肩を斬られた時の傷くらいはまだ残っていた。
それなのにあの人は戦いに行った。
何があの人をそこまで掻き立てるのか俺には理解出来ない。世のため人のためにそこまで自分を犠牲にするというのは俺には出来そうにないよ。
だからこそこの治癒位はしっかりやろうと思う。
俺が1人を治すとまたすぐに1人怪我をして帰ってくる。
その様子に、戦線の最前線の戦いの激しさを感じる。
治癒を受けに来る人たちが居なくなったのは戦い始めて10分ほどたった頃だった。
「マスター! 終わったよー!」
「おぉ! みんな無事かい!?」
「死者ゼロだよ!」
「それは本当に良かった!」
無事ウルフの殲滅に成功したらしい。
いやー、本当に良かった。良かったー。
俺がそう言いながら少しずつ姿を消そうとしていると誰かに肩を掴まれた。
恐る恐る振り返る。
「ねーえ? 晴輝? まさか、私に隠し事したりして無い?」
「はひっ! い、いや、隠し事というか…………。」
「私、これでも命の恩人なんだけどなー。」
「ま、まぁまぁ。晴輝君も困ってるしその辺にしておこ! ね!」
コナーが何とか宥めたお陰で陽夏は何とか引いてくれた。
「はぁ、そんなに私って信用無いかな。まぁ、よく考えたら私達ってそこまでの時間を共にしたりしてないものね。んー、けどなんか貴方って親しみやすいのよね。何でかしら。なんだか幼馴染だったって言われても納得しちゃう感じ。」
「僕も晴輝君とは結構仲良く出来そうだよ。距離感も近いしね!」
「いや、マスターは誰にでもそうでしょうが。」
「はにゃ?」
コナーはあざとくとぼける。
こういう所を見るとこの人は本当に男なのかと思っちゃうよな。
そのまま俺たちは勝利を祝いながら談笑していた。
その知らせが届くまでは…………。
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