第26話
「おーい! 大変だ!」
談笑していた俺達の所に佐々木さんが走って来た。
「どうしたんだい? そんなに焦って。まさかまたウルフとかが攻めてきたとか!?」
「いや、そういう訳じゃ無いんだが…………。取り敢えずこれを見てくれ。」
そう言うと佐々木さんはタブレットを見せてきた。
「これは…………。」
そこに映っていたのは正しく地獄だった。
横たわる大勢の防衛者と思われる人達。その人達はもう生きてはいないだろう。
そして前方には何体もの翼の生えた黒い人間のような物が見えた。まるで悪魔のような見た目だ。
「一応、ここは大きな被害を出しながら殲滅は出来たみたいだ。だが、これはここだけで起こっている事じゃないみたいなんだ。」
「まさか…………。」
俺たちは示し合わせたかのように深刻そうな顔をする。
タブレットで見た所だけでなく俺達の所にも大量のモンスターが出てきている。という事は…………。
「他の場所でも日本中…………いや、世界各地でその事が起こってるって事だね?」
「そうだ。殲滅できていない所や通信が出来ていないところは無いみたいだ。だが、少なからず何処の場所も被害が出ているみたいだ。俺達のようにほぼ無傷で撃退出来たところが半分。何人かの死者が出たりしてるところが四分の一。そしてここみたいに何とか撃退したというところが残りという感じだ。」
そうか俺たちは運が良かった方なんだな。だが、それでも不安はある。これからまた同じような事が起きたら今回のようにはならないだろう。
「ここら辺で1番被害を受けたのは警察署だ。あそこの近くにあるダンジョンにいるトレントが十数体単位で来たらしい。トレントは一体でもかなり厄介な敵なのに…………。警官の四分の三が死んだみたいだ。そして建物も半壊。残った警官の殆どがちりぢりになってるみたいだ。」
「そうか。避難先の目処はたっているのかい?」
「来たい人が居るならば来てもいいとは言っておいた。」
警察。そう聞いて真っ先に思い出したのは凪だ。知り合いというほど見知った仲では無いが、それでも知っている人が死ぬのは目覚めが悪い。
出来るだけ死んで欲しくは無い。それにそんな事を考えてもしょうがないよな。
俺はそう思う事にした。
「じゃあ、もう夜だしみんな休もうか。晴輝はどうする? 家に帰りたいなら帰っても良いけど…………。」
「ん? 晴輝は家に住んでるのか? どうして…………。」
「ええっとそれは…………。」
俺が言い訳を考えていると陽夏も話に入ってきた。
「それは私も気になるわ。よく考えたらそんな変な恐怖症ある訳ないもの。」
いや、それはあるかも知れないだろとは思うがそれをそのまま言ってしまうと俺はそんな恐怖症では無いと言っているようなものなのでぐっと堪えた。
だが困った。恐怖症で通そうとすれば今ここにいれている事がおかしくなってしまうし、他のことを言えば陽夏を騙した事がバレてしまう。
俺が答えられずに困っていると、コナーが俺を庇うように俺の前に立った。
「2人とも。そんなに人のプライベートに踏み込むんじゃないよ。その恐怖症? が何なのか僕には分からいけど無いと決めつけるのも違うしね。人には秘密の一つ二つあるものじゃないか。」
「むぅ。そうだけどさ。」
「いや、その通りだ。すまなかった。これ以上聞かない。」
陽夏は不服そうだが、佐々木さんは納得してくれたようだ。
「じゃ、じゃあ俺は家に帰るから! バイバイ!」
「あっ、ちょっと!」
陽夏に引き止められそうになったが、俺は全力で逃げる事でその手から逃げ切った。
高速LV9は伊達じゃないのだ。
俺はそのまま家へと全力ダッシュで帰って行った。
――――――――――――――――――――
「あの速さ…………やっぱり何か隠してるようね。」
物凄い速さで走り去っていった晴輝の方を見て私はそう呟いた。
あの時。ゴブリンから助けた時に感じたあの異質な様子。それが今見せたあの力な気がしてくる。
私は確信している。
それは晴輝が嘘をついているという事だ。
あの速さからして高速の上位スキルである瞬速は持っていると思っていいだろう。だが、ダンジョンでゴブリンを倒した時、晴輝は自分が獲得したのは解錠だと言っていた。もしあの時、晴輝が私に嘘をついていたとしたら…………。
悔しいような、悲しいような。そんな気持ちが胸に残った。
「あー、そんなに長い事一緒にいたわけでも無いんだけどなー。」
一目惚れ
その単語が頭に浮かぶ。
いやいやいや。そんなはずは無い。
確かに晴輝は顔はいいが、私は顔で人を選んだりはしない。というか晴輝よりもかっこいい人とは何回もあったことがあるし、顔が好みの人ももっといる。
だから顔が良いから気になっているという訳では無い。だから一目惚れなどは無いはずだ。
んー、強いて言うなら庇護欲なのかなー。
私は自分にそんな感情があったということ少し驚いた。
「あ、けどあのゴブリンに怯えている晴輝はちょっと可愛かったかも!」
そう思うと納得がいく。多分私の中に庇護欲と共に悪戯心も芽生えたのだろう。
ま、また晴輝に会えば分かる事だ。
少女はその複雑な心を冷やすように夜の道を歩いて自分の部屋へと向かっていくのであった。
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