第24話

すっかり暗くなった時。俺たちはホテル街に着いた。

夜にしては少し騒がしい気もするが、ホテル街には物凄い数の人達が集まっているので普通なのかな


「まぁ、ちょっと離れた時に大事が起こるなんてこと有り得ないよね。」


コナーはあっけらかんとした様子でそう言った。コナーが離れたのは大体4時間ぐらいだ。そんな短時間で何かが起こるとは考えられない。だけどこんなに感じの台詞って…………。


「あ! マスター! やっと見つけた!」

「あー、マジ?」


やっぱりフラグだよな。

コナーを呼んだのは眼鏡をかけた若そうな男だ。


「早く来てくれ! ヤバいんだよ!」

「ちょっ、落ち着いて! 何があったの!」

「ウルフだ! 凄い数のウルフが襲ってきた!」


俺たちの間に緊張が走る。

流石はマスターと言ったところか。コナーはすぐ様詳細を聞き始めた。


「何処に現れたんだい?」

「いつもと同じ所だ!」

「数は?」

「正確には分からないが、少なくとも100体はいる!」

「100体、まさか…………。」


その数には俺も覚えがある。

ゴブリンだ。俺たちは100体を軽く超える数のゴブリンと戦ってきた。かなりの異常事態だったが、それがウルフというモンスターでも起きたって言うのか?


「コナー。」

「あぁ。君の思っている通りだと思う。さっきのゴブリンとも関連性があると思う。」

「ゴブリン?」

「あぁ、さっき100体を超える数のゴブリン達と戦ってきたところなんだ。多分ウルフと同じ現象だと思う。」

「なんて事だ。じゃあゴブリンも警戒しなきゃいけないのか。」

「そうなるね。さっき言ったゴブリン達はこの晴輝君と偶然居合わせた警察官君と一緒に全部倒したからウルフ程の数は来ないと思うよ。」


コナーは俺をドンッと前に出しながらそう言った。

ちょっとコナーさん。いきなり知らない人の前に出させれると困るんですが!?

眼鏡の男は俺をじっくりと観察する。

うぅ、怖いし恥ずかしいぃ。


「ほぅ、中々にいい体をしているみたいだな。筋肉が引き締まっている。高校生か?」

「違うよ。僕と同い年の28歳!」


コナーは28歳という部分を強調させて言った。やはり子供に見られるのは嫌なのだろうか。


「マジか、俺より年上じゃねぇか。まぁ、マスターと言う前例があるしな。佐々木だよろしく頼む。」

「よ、よろしく。」


差し出された手を恐る恐る握り返す。

良かった。この人は良い人だ。程よい距離感を保ってくれる。


「じゃあ取り敢えず現場に向かおうか。まだ戦闘は続いてるんでしょ?」

「あぁ。襲って来たのはついさっきだ。」

「そっか、急いでいけば間に合いそうだね。晴輝君はどうする? 手伝ってくれたら嬉しいけど、別にそんな義務は無いからね!」

「…………。」


行きたくない。

これが本音だ。

ゴブリンならまだ行ったかも知れないが、得体の知れないモンスターと戦うなんて危険すぎる。

それに、ここの戦力がどのくらいか分からないが、陽夏位の強さの人が何人か居ればきっと勝てると思う。わざわざ俺が行っても助けにはならないだろう。


「俺は…………。」

「あ! マスターと…………晴輝!?」


声の方を振り返ると、そこには陽夏がいた。


「陽夏!? 何でここに!?」

「何でって、凄い数のウルフが出たって聞いたから増援として行こうとしたの。」

「そうなのか…………。」


そりゃ陽夏レベルの戦力が行かなければキツイだろう。

陽夏がどれくらいの強さにいるのか分からないからなんとも言えないが、きっと陽夏は防衛者の中でも強い方だろう。


「みんなはこれから来るのかい?」

「うん。だけど多分30人も来ないと思う。みんなその数を聞いて足がすくんでるみたい。」

「そうか。しょうが無いよ。僕達は避難民たちのボディーガードって訳じゃ無いからね。」

「んー、だけど納得いかないわよね。」


陽夏は不満そうだ。

やっぱり俺と同じ考えの人はいっぱい居るんだな。こうゆう事を聞くと自分のやっている事が正しい事だと思える。


「それよりさ、晴輝なんかカッコよくなった?」

「ふぇっ!?」

「んー、まぁ、ずっと見てなかったからなのかな? 私さ、ずっと見てなかったからもうどっかで死んじゃったかと思って心配してたんだよね。まぁ、その感じじゃ大丈夫そうだけどね。」

「そ、そっか。それはすまない。」


ふぅ、危ない危ない。美少女からの急な褒め言葉は心臓に悪いな。

夜の暗闇はきっといい具合に俺の真っ赤な顔を誤魔化してくれるだろう。夜で良かった。


「あ! それよりも早く行かなきゃ! 晴輝も着いてきて!」

「えっ、いやっ俺は。」

「いいから!」


俺は陽夏に腕をがっしりと掴まれて引っ張られた。

陽夏はそのまま走り出す。

引きずられまいと必死でそれについて行きながら腕を振りほどこうとするが、物凄い力で押さえつけられた。


「もう! ビビってないで戦うよ!」

「うぅ、分かった。」


戦いたくないが、もうこれは戦うしかないな。

くっ、仕方がない。俺は覚悟を決めた。

俺たちは目にも止まらぬ速さでウルフの大群の所へ駆けていくのであった。

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