第22話

俺は倒れてしまったコナーをどうすればいいのか分からず焦っていた。

何か治す方法はないのか…………。

そこで俺は凪が使っていたスキルを思い出した。

治癒だ。

それを今取ればコナーを治すことが出来るんじゃないか?

だが、俺はそこで踏みとどまった。

治癒のスキルは本当に必要なのか?

俺には完全再生と言うスキルがあるので治癒はそこまで必要じゃない。

俺は倒れているコナーを見た。子供のような見た目だがこれでもマスターだ。一応俺の上司に当たるような人だ。

この人とコネクションを取っておけば後々絶対に得だろう。ダンジョンなどにも入りたいし、人々を助けてちやほやもされたい。勿論楽に。


「しょうがない。」


俺はコナーを助けることに決めた。治癒も使えないスキルな訳じゃ無いし、取っておいても良いだろうと思ったからだ。

それにコナーに恩を売れたらそれこそ得だしな。


俺は取り敢えず治癒を手に入れる方法を考える。

治癒って言ったら治すことだ。という事は看病すると言うのも治癒のうちに入るだろうか。

時間もない。やれる事をやっていこう。

とは言っても俺の家には看病をする道具などない。

何か出来ることは無いかと思い、コナーを見ると、コナーの顔に大量の血が着いていることに気づいた。

これを拭くだけでも大丈夫だろうか。

コナーは浅い息をしており、危険な状態のようだ。

もうそれしか無い!

俺はタンスから綺麗な服を取り出して血を拭いた。服で拭くなんて何だかギャグのようだが、笑い事じゃない。時間は刻一刻と迫っているんだ。

拭くと同時に俺は箱も開け始めた。どのくらい必要か分からないが、そこまで時間はかからないはずだ。

開けるにつれてどんどんと増えていき邪魔をしてくる空箱にイラつきながらも箱を開け続けていく。


【スキル《治癒LV1》を入手しました】


よし! 狙い通りだ!

俺は早速使おうとしたが、肝心な使い方が分からない。

凪はそのまま言葉に出すだけで出来ていたように見えた。俺も見様見真似でやってみる。


「治癒!」


何も起こらない。だが、進歩はあったようだ。

この部屋に漂っている見えないが見えるもの。匂いも色も触感もないがそこにあると分かるもの。そんな何かがそこにあった。

俺はこれがなんだと理解した。

これを使うイメージをすれば使えるのか?

俺は体外魔力がコナーの体を治していくイメージをした。


【治癒!】


すると、コナーの全身がぼんやりと赤く光り出した。

何処が悪いのか俺には分からなかったので全身を治すイメージで使ったのだが、効果が薄そうだ。

俺は少しずつ治癒する場所を絞って行った。すると、頭が1番効果が高そうだった。まぁ、血が出たのは耳や鼻なので頭だよな。


しばらく経つとコナーの顔色は良くなって行き、呼吸も落ち着いてきた。


「むにゃむにゃ、んー、まってよぉ、もぉ食べれないぃー。」

「おい。」


呑気に寝言を言っていやがる。俺はこんなに頑張ったって言うのによ。だが、その気持ち良さそうな寝顔を見ているとそんな気も失せてしまった。

はぁ、じゃあ起きるまで何をしていようか。

俺は何かやる事を考えるが特に思いつかなかった。うん。箱を開けよう。

ネットが無くなったら趣味が無くなってしまう事に少し寂しさを感じたが、俺はこれからもっと良い暮らしをする事を夢見てその気持ちを和らげた。


さて、そんな事は置いといてスキルの事だ。俺はさっきの戦闘のこともあり、もっと戦闘力を上げておかないといけないことを実感した。この近くではそこまで強いモンスターは出ていなかったので少し後回しにしていた所もあるののだが、今はそんなことも言ってられない。もうすぐここもやばいかもしれないのだ。

さっきのゴブリンは軽く100体はいた。それ程の数がいればさすがの俺でも死闘は免れないだろう。しかもそれは増える可能性もある。

少しずつゴブリンの数は増えてきている。

これから更に数が増えたり、さらに強力な個体が出てくる可能性もある。

ならば俺はそれに対抗するために更なる戦力をつけなければならない。

俺は今の主戦力であるナイフを手に取った。

このナイフも更に強い物に変える必要もあるかも知れないな。

だが、それも今じゃない。なので取り敢えずは剣術を上げることにした。


箱の開く音とコナーの寝息がこの部屋に響き渡る。

とても静かだ。

俺は静かなのは少し苦手だ。


何故なら昔の事を思い出してしまうから。


「うぅーん。晴輝ー。箱を食べちゃダメだよぉ。もったいないよぉ。」


コナーがその俺の気持ちを吹き飛ばしてくれる。

本当に助けて良かった。俺は本心からそう思った。偽善などでは無い。

俺はこの人に惹かれているのだろう。

恋愛的な意味ではなく、ただ1人の人間としてこの人と一緒に居たいと思っている。

利益がなんだと思いはしたが、それが無くとも助けていただろう。

俺は良心に弱いのかもしれない。長年ネットという人の悪い部分を包み隠さず出せてしまう空間に住み、そこに毒されていた俺にはその純粋なる光が眩しすぎるのだ。

陽夏やコナー。どちらも良い人だ。この人達と居れば俺は良い人になれるだろうか。


「コナー。俺はお前が羨ましいよ。」


コナーの美しい緑髪を撫でながら俺はそう、呟いた。

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