第9話 黒い疑惑 その3
コードネーム・ナイン――四肢の指が、それぞれ九本ずつある生物。
2031年7月6日未明。神奈川県
付近に、未知の生物が倒れていたが、まだ生きているらしかったので、消防のヘリコプターで救急搬送される。
連絡を受け、一度は受け入れを決めた国立の総合医療病院だったが、運ばれてきた生物の容姿に驚愕し、治療法も分からないため、一転拒否し、政府経由で自衛隊に預けられた。
応急処置後には、国の戦略的研究機関
警備は、警視庁警視総監である相田の直下に特別編成された部隊が担当した。
数日後、どこから情報が洩れたのか、
その日までに、
政府経由で、圧力をかけられ、
ただし、主導権は、
数週間の共同研究で、さらにナインの詳細が明らかになる。
ナインの生活する快適な温度は、5℃と、かなり低温なこと。
ナインは、感情を持ち、人間と同じように喜怒哀楽があること。
ナインの脳波を解析することで、意思疎通が出来ること。
そして、これは、ナインの個性なのかもしれないが、楽観的で、ユーモアにあふれていること。
研究に停滞感が出始めた頃、アメリカ側の提案で、横須賀米軍基地にあるという、最先端の蛍光X線解析装置で生命体の組成を調べることになった。
しかし、その計画が実行される日、基地までナインを運んできた警視庁の警備部隊と
米軍基地内で行われるため日本人は、誰も立ち入れないというのだ。
もはや、未知の生物であるナインを預けるしかなかった。
そして、ナインは、基地から消えた。
「軍の輸送機で、本土に輸送したとしか考えられない。関係者の間では、その事件を黒い疑惑と呼んでいる。ナインを先に盗んだのは、アメリカの奴らなんだ。本当に、卑怯な奴らだよ」
相田が言うには、ナインが国家機密として取り扱われることが決まった時、
その周りを嗅ぎまわっていたのが、甲賀の忍者だったとのこと。
「きっと、ナインの存在を嗅ぎつけて、アメリカにリークしたのは、甲賀集団なのだろう」
相田は、自分の部隊の失態により、情報が洩れ、警備も失敗したことを痛恨の極みと思っているようで、これまで見たことの無いほどの、苦々しい表情をした。
「私は、甲賀が憎い……。しかし、表立ってCIAと事を構えたくない。国際問題に発展しかねない……」
「では、甲賀集団に買収工作でもかけますか?」
戦国時代さながらの忍者家業を生業にしているのであれば、金で動くはずである。より多くの俸給を出した者に仕えるのは当たり前で、例えその指示が、元の主人を裏切ることになっても、まるで意に介さない。
それが、職業としての忍者の習わしである。
相田の口の端が、少し上がった。我が意を得たりという、満足げな顔である。
「もし、それができるのなら、やってくれるか、山月。ただし、お前一人で」
「えっ? 私だけで、ですか? 九は?」
「あいつは、甲賀に父親を殺されている。それを知ったら、奴らを壊滅しようとして、手がつけられなくなる。今回のミッションからは、外す」
山月は、九の性格を思い返す。確かに、甲賀集団の全員を殺して、山の中に埋めてしまうことは、想像に難くない。
一方で、本物の忍者集団に、山月のようなエセ忍者が、一人で乗り込んでいって、交渉などできるのだろうかという不安がよぎる。
「甲賀と交渉し、この件から手を引かせてくれ。山月、頼む」
バーのドアが開いて、カップルと思しき男女が入ってきた。一緒に吹き込んできたのは、湿気をたっぷりと含んだ不快な風。
相田が山月に頭を下げたのは、初めてだった。それほど、相田の思いが強いということだろう。
山月は、決意する。
ただ、頬に当たる生暖かい風が、なぜか、山月を不安にさせた。
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