2-33話、激闘。(アメリ視点あり
「──くそっ、いい加減『落ちろ』よ!」
あれから数分、俺はドラゴン相手に破れかぶれに『マジックラベル』を飛ばし続けていた。一度もまともに当たっていない。当たっていれば今頃勝っている。
ドラゴンがもう一度、炎を吐く構えをしたので俺は身の毛がよだつ。さっきの地獄を思い出して、俺は全力で回避を優先した。足の下を熱が通り抜けていき、足首から下が重度の火傷を負う。あまりの痛みに気を失いかけるも、ギリギリで『復元』を自分に貼ることを成功する。
「やりたい放題やりやがって!」
俺は後どれだけこいつとやり続ければいいのだろうか? 勝ち目が見えない勝負をすることに意味はあるのだろうか? 頭の中が混乱している。
「何かないのか、何か!」
俺の攻撃手段を全て封じられている。後は一方的に嬲られるのを待つだけ。起死回生の手は今の俺にはない。
「──アメリ」
ギリギリの状況で、俺は一人の少女のことを思い出していた。彼女が居れば、この状況を覆せるかもしれない。何故だかそんな気がする。彼女が『勇者』だからかもしれない。
そんな甘い妄想を抱き、俺は歯噛みした。それじゃあ、俺自身に何の価値も無い。旅を決めたのは俺だ。なら、他人に甘えるな。リッド・ヴェルファースト! お前はこんな困難も一人で乗り越えるつもりだったんだろ!
「『落ちろ』! 『落ちろ』! 『落ちろ』! 『落ち』──!?」
俺は、撃ち続けて言葉を失った。いつの間にか『マジックラベル』が出なくなっている。どうして? そう考えた俺の頭は一つの結論を出す。
「枚数、切れ……」
いつから俺はラベルが無限に出ると思っていたのだろうか? 条件も知らないのに、無駄遣いを続けていた。俺は馬鹿だ、どうしようもなく馬鹿だ。こんな大事な時に大事な物を失ってしまうなんて……。
「くっ、ラベルを……」
俺は腰にあるラベルを取って、文字を書こうとする。しかし、空に荒れ狂ったように吹く風にまともに字を書くことなんて出来ない。
やがて、ドラゴンはもう攻撃をしてこない俺に興味を無くしたのか街の方へと向かって行く。
「──待て、待てよエステル! 俺はまだここで生きてるだろうがッ!」
声を出し、必死に引き留めようとするが、その声は風に掻き消されて届かないのかこちらを向くことすらしない。ダメか……そう思った時、ドラゴンに向かって何かが飛び掛かっていくのが見えた。
それは、赤い髪の少女。緑色のオーラを全身に纏い、空を飛んでいる。その剣には電気を纏わせドラゴンへと斬り掛かっていた。
「──アメリ!」
どうして、アメリがここに!? 俺の頭は困惑する。彼女はエステルに捕まっていたはずだった。一体何が起きているのかわからない。……わからないが。彼女だけに戦わせるわけにはいかない!
俺は、アメリの元へと身体を向かわせた。
☆
「ハァ、ハァ、リッド、さん……」
山を全力で駆け下りた後、アメリは現状の把握に努めていた。今、ドラゴンの下では『天空の理想郷』が魔物の群れと戦っているところが見える。
そして、空に浮かぶ巨大な魔物に食らいつく人影が一つ。その人物の名前をアメリは呟く。
「どうみても劣勢……早く助けないとリッドさんが……」
でも、アメリはそこで気付く自分には空へと向かう手段がないことに。もし、最初から空を飛べていれば、アメリはエステルに捕まることがなかったと自分を恥じた。
「もっと、自分で動けるようにならないと、どこへでも行けるようにならなきゃ、リッドさんの助けにならないから!」
リッドはラベルを使い、どこへでも向かうようになる。そこに付いていけないと一人ぼっちで取り残されてしまう。そうアメリは想像し、頭を振った。
「もう一人は嫌……だから力を貸して!」
覚悟を決め、空を睨み声を出す。──その瞬間アメリの身体を緑色のオーラが包み込んだ。それはアメリの身体をふわりと空へと浮かばせた。
「──ありがとう、待っててリッドさん!」
アメリは力を貸してくれたもう一人の自分へとお礼を言い、空へと舞い上がっていく。──それがアメリの第一の覚醒となった。
☆
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