2-31話。 二匹目の強敵。
「でかすぎんだろ……」
ドラゴンの正面まで来た俺は、そいつを見た感想を口にする。そいつの体躯はまるで要塞のように見えた。こんなデカブツが空を飛ぶなんてことが常軌を逸している。
俺はそいつを睨みつけ、『マジックラベル』を展開する。ドラゴンの起こす強風のせいでとてもじゃないが、まともに文字が書けそうにない。
「──『死』ね!」
俺の声と共に、マジックラベルはドラゴンへと向かい直撃した……かに見えた。しかし、それは剥がれる鱗に吸い込まれていく。
「そんなのありか──うわっ!」
羽による強風でまともに姿勢が制御出来なくなってしまった。こっちはまだ空中戦初心者、下手すれば地面に叩き付けられるか、空の彼方へ吹き飛ばされるかの二択だ。
「──あぶねぇな!」
なんとか姿勢を保ち、ドラゴンの表皮を見てみる。よく見れば、鱗が所々剥がれ落ち、身体の近くで舞っているのが見える。普通のドラゴンならこんなことはあり得ない。
「天然の『障壁』ってわけか。これは想定してなかったな……」
目の前のドラゴンは、俺の天敵となる存在だった。ふと、あの騎士のことが頭に浮かぶ。
「あいつがリッド初めての強敵なら、こいつは二番目だな。まったく、まだ旅にも出てないってのに……」
旅の中で強敵と出会うならまだ心が躍る。だが、今は街を死守する為に戦わないといけない、心が躍るじゃなくて、緊張で跳ね回っているところだ。
「さて、ラベルは効かない。ダブルラベルも封じられてる、エクスカリバーはこの大きさだと致命傷になるかわからない、俺の取れる行動をここまで封じてくるか。なぁ、エステル!」
ドラゴンの上にはエステルと男が乗っているのが見えた。口元がにっこりと笑っている。何かを言っているようにも見えるが、ドラゴンの起こす風によって掻き消されている。
「こいつを殺して、お前に今回の件を吐かせる! だからそこで待ってろ!!!」
俺は、叫びながらエステル相手に指をさした。これは、お前への挑戦状だ、エステル!
そして、俺はドラゴンとの戦いを続け始めた。
☆☆☆
「やっぱり、リッドさんの弱点は壁ですねぇ。ラベルが貼られなければその効果は意味を無くす。思った通りでしたぁ」
ドラゴンの上でエステルはほくそ笑む。リッドが邪魔をしにくるのを読んでいたエステルはこの短時間に、ドラゴンの身体を改造していた。それは自動的に鱗が生え変わるといった物。他の魔物の能力をドラゴンに付与することで、違う効果が発動することもある。ドラゴンの場合は、その鱗が辺りを飛び回る効果を有していた。
「鱗が身体に戻ろうと意志を持っているのかなぁ? 興味深いなぁ」
エステルはリッドそっちのけで効果を考える。エステルにとってはこの戦闘も実験だった。
「おい、エステル」
「あら、いけませんよぉダズさん。私の実験中に話掛けたらぁ。死にたいんですか?」
「い、いや。すまなかった」
エステルの圧にしゅんと引っ込むダズ。ダズは今やエステルの尻に敷かれていた。エステルにとってはダズはただのサンプル。そう……実験をするためだけの従順なコマでしかなかった。
「あら、リッドさん。いい天気ですねぇ。こんな日はのんびり空で実験しましょうよぉ」
リッドの姿を見て、エステルはリッドに声を掛ける。にっこりと笑いながら。
「街の皆さんは殺しませんので安心してください。私の実験道具になるだけですから」
エステルが今回こんな暴挙に走るのは、簡単な理由だ。街の皆がいなくなればまだこの施設で実験を続けられるのではないか。この一点だけだった。それ程、エステルにとって施設づくりは面倒なのだった。
「あら、うふふ。挑発ですかぁ?」
リッドに指をさされ、エステルは笑った。今まで、こんな殺意を向けられたことは彼女にはなかったからだ。
「いいですよぉ、乗ってあげます。いけ、どらちゃん!」
エステルはドラゴンキメラの名前を呼び、コントロールをする。さっきまでただ飛んでいるだけでリッドに脅威を撒き散らしていたドラゴンが、今動きだした。
☆☆☆
「おいおい、嘘だろ!?」
さっきまでの動きとは違い、いきなり巨体が速度を上げる。台風にも似た暴風が辺りに吹き荒れ始める。
避けたところで、風に身体が持っていかれる。こういう時は……。ラベルに何を書くか考えた末、これを書いた。
『透過』。壁をすり抜ける為に使ったこのラベルを自身の身体に貼る。初めての試みは上手く行き、俺はその場所に留まることが出来た。これで防御面は大丈夫な……はずだ。
「流石に、これ以上はないだろうな?」
これで済めば簡単なのだが、そうはいかないはずだ。俺の身体を突き抜けたドラゴンは反転し、息を吸い胸を膨らませる。
「──あれは!?」
御伽噺で見た、ドラゴンのブレス。それを繰り出そうとしている。でも、それは『透過』には……いや、待てよ。
「熱ってすり抜けるのか?」
太陽から照り付ける熱は身体に感じている。なら、ドラゴンの吐く炎は……。
「ちょっと待て!!!」
急な対応を迫られ、頭がパニックになる俺に──ドラゴンの炎は直撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます