第十三話、異変。

 俺はアメリのステータスをもう一度見る。彼女のステータスは素早さが早いが、力や防御力がやや弱い、正直言って武器が合ってないように思えてくる。


「ど、どうかしました?」


 彼女が顔を赤くさせながら、こちらを窺っている。色々見ていると勘違いされそうだから、実験は早めに済ませた方がよさそうだ。俺は腰にある、ラベルのストックを取り出そうとしたところで、ふと気が付いた。


「アメリ、君ってレベル高いんだな……」


 彼女のレベルは既に20台を越えていた。これはスカイディアでも平均を越えている。それなのに、何故こんなにパラメーターが低いのか……


「え、えぇ……まぁ……」


 彼女の声が少し曇った気がしたので、それに触れないようにスキルを見る。そこには、彼女のレベルが高い理由が書いてあった。


「『成長加速』⋯⋯か。なるほど、これがあるからレベルが上がりやすいのか」


『成長加速』効果 レベルアップ速度を早くする。パラメーターの伸びが悪くなる。


 これが彼女の持っているスキル。彼女のパラメーターを見る限り、デメリットの方が強いみたいだ。それと他には……なんだこれ?


「なぁ、『鑑定』で見るとさ、君のレベルが38で新スキルを取得できると書いてあるんだけど、君のスキル欄にこれは書いてあるか?」


「い、いえ。書いてありません!」


 アメリは慌てて首を振る。やはり、この文字は『鑑定』でしか見えていないみたいだ。


 前に、ハルトが『鑑定』持ちを欲しがっていた理由がよくわかった。その時のハルトは、能力の伸ばし方も見れるかもしれないとか鼻息を荒くしていたのを覚えている。


「リッドさん、それでどうしますか?」


 そうだな、実験だしアメリの負担にならないように……


「あ、いいことを思いついた」


「……え?」


「この『成長加速』のマイナス効果、これを変えてやればいいんだ」


 俺は思い付きを早速実行する為に、ラベルに文字を書いていく。その文字は『倍に』。これで、彼女のスキルはこうなった。


『成長加速』レベルアップ速度を早くする。パラメーターの伸びが『倍に』なる。


 ……このスキル壊れているな。後はアメリにレベルを上げてもらうだけ……その前に一応確認しておくか。


「アメリ、君のスキル欄を見てくれ。『成長加速』の効果は変わっているか?」


「は、はい、変わってます!」


 これで鑑定で相手のスキル欄をいじれることがわかった。……これ、かなり使えるな? 軽く考えただけでも3つも戦闘方法を考えついたぞ。


「どうかしました?」


「いや、次の実験は魔物に試してみようかと思ってな」


 アメリが首を傾げていたので、俺は笑いながら今考えついたことを彼女に伝えるのだった。








「──魔物がいませんね」


「……おかしいな、朝は割といたはずなんだけど」


 俺達は草原を歩いているが、魔物が一匹もいない。アメリに聞いてみるが、こういったことは初めてだと言う。


 魔物がいないせいで実験が進まない。それに、俺の方も疲れてきていた。さっきから俺の目には大量の『草』の説明が映っている。それが俺の疲労を加速させていた。


『草』ただの雑草。わかった、わかったからその文字を消してくれ。


 俺は我慢出来ずにスキル欄から『鑑定』を剥がす。正直言って、このままでいると気が狂いそうだった。


 その瞬間にアメリの鑑定結果も消え、『倍に』のラベルが宙に舞う。⋯⋯なるほど、こうなったか。


「リッドさん、大丈夫ですか?」


 アメリがこっちに声を掛けてくる。俺の顔に疲労でも浮かんでいるのだろうか? そう思いながら、俺はアメリに頷く。


「ああ、大丈夫だ。⋯⋯でもちょっと疲れたかな。それに腹も減ったし」


 散策していたので気が付かなかったが、太陽は真上まで来ている。もう昼時なので一度街に戻るべきかもしれない。


 ──ぐー。ほら、横にいる女性も帰るべきだと言っているではないか。


 俺が横に目を向けると、アメリは俺から目をそらしていた。なんてわかりやすい態度だ。


「さて、昼だし飯にしようか」


「……はい」


 俯くアメリを連れて、街へと戻ろうとした。その時、俺の耳に誰かの声が薄っすらと聞こえてくる。それは緊急性を持った、悲鳴にも似た叫び。


「──けてくれ! ──かっ!!!」


 その声は和やかな雰囲気を切り裂いた。アメリを見てみると、彼女も気付いたのか、声の聞こえた方を見ていた。


「──誰か! 誰かいないのか! 助けっ──」


 今度はちゃんと声が聞こえた。男の悲痛な叫びが耳に届く。それを聞いて、俺の身体は固まってしまう。


 ──どうする? 行くべきか?


 少しの間逡巡する。草原にいる魔物ならあそこまで声を張り上げる必要はないはずだ。俺の頭の中に、ギルドでのカレリアの言葉が浮かんできた。


 ──昨日からおかしなことが起きているらしくてな……スカイディアのマスターにも調査を頼んだんだ。


 何故だか、カレリアが言ったことが今の状況に繋がっている、そう思えてならない。それならば、俺達が行っても力になれない……そう思った。


「──アメリ!?」


 俺が声を掛けるより先にアメリは駆け出していた、それも声の主の方へと。制止を試みても彼女の性格なら止まらずに助けに行くだろう。……自分の身も省みずに。


「──くそっ、一言くらい相談してくれよ!」


 悪態を吐きながら、俺は彼女の後を追いかけ始める。もう既に視界に映る彼女の姿は小さくなっていた。


「ぜぇ、ぜぇ……」


 追いかけ初めてすぐに、息が上がり肺が痛くなってくる。どれだけ頑張ろうとしても、歳には勝てないと思い知らされる。


 これなら、何か速度アップのスキルを付けておくべきだったと今になって思い付いてしまった。もっと早く気付け、俺の馬鹿!


「はぁ、はぁ、ステータス……オープン!」


 俺はスキル欄に『鑑定』と『短剣術』、『投擲術』、『敏捷強化』をセットすると、身体が軽くなり速く動けるようになった。


「はぁ、待っていろよアメリ! 頼むから俺が行くまで持ちこたえていてくれ!」


 ──俺は、姿の見えなくなったアメリに対して、そう願った。

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