第2話ナヅキと、シスター
「な、なんで?」
最強過ぎてドアが開けられないのだ。
仕方ないのでドアを叩くと粉々に砕ける。いや、普通に空けたいんだけど。
「嘘だろ……」と呟き、私は外に出た。
私の目の前に広がる景色は、見たこともない場所だった。
あたり一面に草木が生い茂る、振り返り私が先ほどまで居た場所を確認する。
そこには、ただ岩肌が露出しているだけの洞窟に扉を取りつけたような祠だった。
ここは一体どこだろう? 私は混乱しながらも歩き始めた。
すると、少し歩くとすぐに水が流れる音が聞こえてきた。川があるようだ。
私は水の音に近づくと道のようなものが見えた。
「あ、橋だ」
それは頑丈な作りの石橋だった。ところどころ崩れてはいるが、石でできたアーチ状の橋はしっかりと残っている。
「(もしかして……)」
ふとある考えが頭の中を過った私は石橋に近づいて拳で叩いてみた。
すると予想通り、轟音を立て石橋は崩れ落ちた。
……やってしまった。
私は呆然としながら、足元を見る。
「……どうしよう」
私は途方に暮れた。どうやら私はとんでもない力を手に入れてしまったらしい。
「はあ……」
これからどうすればいいんだ。
私はこの時点で最強パワーとやらにうんざりしていた。
来た道を戻ろうと振り帰ると遠くの方に村のような物が見える。
「(……人がいるかも?)」
私は希望を持った。
私は急いでその場を後にし、村の入口らしき場所にたどり着いた。
どうやらそこは交易所か何かのようで、多くの人が出入りをしている。
周囲には商人や旅人らしい人の姿が多く見られた。
これなら私がふらりと立ち寄っても不自然じゃないだろう。
そう思った私は村の中に入ってみた。よかった、誰も私を気にも留めない。
私は堂々と歩き村の中を見学していると、手作り感のある宗教的な装飾が施された妙に汚らしい小屋を見つけた。
「あれは何だろう?」
私はその建物の前まで歩いていくと『神様の家』と雑な字で書かれた看板が立てかけられていた。
神様かぁ、最強パワーについて聞けばなにかわかるかな……。
私はなんとなく扉に近づく、でも困ったな。ヘタにドアを開けると壊れてしまうんだった。
「うーん……」
壊さずにどうやって開けようか悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「ちょっとあんた、そんなところで何をしてんだ?
もしかしてあんたも金貸しが雇ったごろつきか?」
振り向くとお婆さんがいた。
「え?ごろつき?あ、いえ……ちょっと、あの、ドアを壊したくなくて……」
「ドアを壊したくない?あんた何言ってんだ?頭がおかしいのか?」
「いや、だってドアが壊れたら弁償しないといけないかなって……」
私がそういうと、お婆さんは大笑いをした。
「まったくわけのわからない人だねえ……」
そう言いながらお婆さんがドアを開けようとすると、建て付けが悪かったのかドアの扉がバタンと倒れた。
「……あらまあ」
「うわぁあ」
『神様の家』の中をのぞくとごろつきがたむろしている。
なんだかずいぶんとガラの悪い神様たちだなあと思った。
いや、違う。ごろつきたちがお決まりのセリフを吐きつつシスターらしき人を脅しているのだ。
私がそれを見ているとお婆さんが怒鳴りだした。
「こらあんたら!シスターをどうしようってんだい?!」
「ああ?うるせぇぞババア!すっこんでろ!」
どうしようか考えているとシスターが泣きながら何か言っているのが聞こえてきた。
いや、違う。よく見るとこのシスター、泣いているのかと思ったら鼻水をかんでいる。
「……はぁ、ごめんなさい。お婆さん、ごきげんよう」
「ごきげんよくねえよ!お前な、さっさと金出すかここから出てくかしろってんだよ!」
ごろつきたちは今にもシスターに殴りかかりそうだ。
これはまずいと思い、私はシスターを助けに行くことにした。
「あ、すみません」
私はごろつきの頭を軽くポンと撫でるように叩く。
ごろつきを、ポンと叩けば、ぎゃあと鳴く。
ごろつきたちは最強パワーの前に次々と崩れ落ちていった。うーん最強過ぎる。さすが最強パワー。
お婆さんは目を丸くしながら呆然としていた。
「あっ、あんた……?!」
「あ、気にしないで下さい」
私は、伸びているごろつきたちを尻目にシスターに話しかける。
「ん……え、なんですか?」
シスターは鼻水をすするのに忙しく、ろくに私の活躍を見ていないようだった。
「あのー……シスターさん、大丈夫ですか?」
「え?あ、はい。ありがとうございます」
シスターは何も言ってないのに勝手に私の手を取って立ち上がる。
ぐちゅっとした鼻水まみれの手で握られたので一瞬鳥肌が立ったけど振りほどくわけにもいかないので我慢することにした。
うぐぐ……。
「あなたは一体……それにこの人たちは何で倒れてるの……?」
シスターは不思議そうな顔をしながら聞いてきた。
「いやぁ、ただの腹痛かなんかでしょう。ところで神様について聞きたいんですが、最強パワーを授けてくれるような神様はいますか?」
私はシスターに神様について質問してみることにした。
「最強の神様ですか?それはきっとムオン様のことですね!」
神様の話を持ち出されると、シスターの顔が一瞬で明るくなり、彼女は自信満々といった感じで答えた。
「……ムオン様?」
なんだかむお~んとした名前だな~。
私に最強の力を与えたのはもうちょっとイヤガラーセな感じだけど……。
「はい!ムオン様はとても強くて優しい方なんですよ!」
シスターは嬉しそうに語る。
えー?優しい……あれが?まさか。神様にもいろいろあるのかもしれない。まあいいか。
「その神様ってどこに住んでるんですか?できれば会ってみたいのですが」
私はもう飽きてしてしまっていたので神様的な存在に最強の力を返して一刻も早くあの暗い部屋に帰りたかった。
「えっと、その、神様なんで……場所とかは、神様の世界から私たちを見守ってくれているというか」
「えっ、でもこいつらごろつきに襲われてませんでしたか?」
私は床に転がっているおっさんを指さす。
「ベべべ、別に襲われてません!だって私は神のご加護を受けてるんだから!そ、そうです!きっとあなたが神のご加護なんです!だから神様は私を守ってくれたのです!」
なんだこの人、突然興奮し始めたぞ……シスターは早口になりながら私に詰め寄ってきた。
ま、まあ、ここにいても情報も無さそうなので他の場所に行ってみるか。
「そっ、そうですか……では、失礼しますね」
「えっ!?ちょ、ちょっと待ちなさい、せめてお名前を、名前を!あなた何なの!神のご加護!」
シスターの迫力に負けて私は名乗ってしまう。
「わ、わかりましたよ……私の名前はナヅキです。ただの旅人です……」
「ナヅキさん、お願いします!
どうか、私の村に泊まっていってください!
そうです、お婆さん、この人を泊めたげてください!」
シスターは鼻水をたらしながらお婆さんに懇願する。
「な、何を言ってんだい?!ダメだよ、知らない奴を家に入れるなんて!」
「シスターさん、その方の言う通りですよ。
私みたいな怪しい人間を家に上げるのは……」
「何を言ってるんです!
お婆さんは私が男の人と二人きりで寝泊まりしてもいいって言うんですか!?」
……うわぁ、言っていることが無茶苦茶だぞこの人、一体何なんだ?
結局、お婆さんはシスターの無茶ぶりに根負けしたようで物置小屋ならという条件で許可を出してくれた。
案内された場所は狭く、汚かった。
それでも野宿よりは全然マシだったのでありがたく使わせてもらうことにする。
はあ、最強パワーなんかじゃなくてお金さえあればなぁ……もっときれいな所で眠れるのに。
「(はやく帰りたい……)」
そんなことを思いながら私は眠りについた。
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